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【1】 青年との再会
桜佑は半ば強引に連れられ、居酒屋が立ち並んでいる場所へと来ていた。そして二人はカジュアルな店の前に立っていた。
「カフェアンドバー・・・?」
桜佑は店の前にあるスタンド式の黒板を見て、不思議そうに言った。
「そ、ここはランチやコーヒーが楽しめるカフェと本格的なお酒が楽しめるバーかミックスされた店だよ。結構前からあったけど、知らなかった?」
「うん、初めて知ったよ。」
「だから酒が苦手な桜佑でも楽しめるんだぜ。そんじゃ中に入ろう。」
二人は店に入った。中にはある程度の客がおり、賑わっていた。
すると、カウンターの方から女性が声をかけてきた。
「あらー! 友くんいらっしゃい。今少し混んでいるのよ。カウンターでいい?」
「全然いいですよ。姉貴の幼馴染がやっている店なんだ。」
どうやら友明と店長は知り合いのようであり、桜佑は友明に付いて行きカウンター席に座った。
「あら、その子はお友達?」
「はい、同じ大学で同い年。」
「へーそうなの。私店長の道子よ、ところであなた悩み事があるみたいね。」
「えっ、わかるのですか?」
桜佑は初対面の人に自分の気持ちを見透かされたことに驚いていたが、道子はわかって当然という顔をしていた。
「道子さんは長年接客の仕事をしているから、わかっちゃうんだよ。」
「そうよ。表情さえ見ればすぐにわかるわ。さあとりあえず、何か飲みなさい。」
「たしかにそうっすね。俺はウィスキーをハイボールでお願いします。」
「では僕はコーラをお願いします。」
二人が頼んだ飲み物は五分もしないうちに届き、一息ついた。
「それで桜佑くんだっけ。どんな悩みなの。」
店長が質問してきたため、桜佑は朝の出来事を話し、その恩人にお礼がしたいことを話した。
「へぇ~男が痴漢されることあるんだね~。さぞかし気持ち悪かったでしょう。それでその恩人さんはどんな特徴なの?」
「えと、身長が百七十センチぐらいの青年です。」
「身長高めの青年?…あっそういえば、新しくウチで働く子も結構美形なのよ。」
道子の発言に友明が反応した。
「道子さん新しい人雇ったの?」
「そうなのよ。ちょうど二十歳になったばかりの子でね、顔もいいけど性格も真面目でいい子なのよ~。そろそろ休憩が終わるから来ると思うわ。」
すると、カウンターの奥の扉が開き一人の店員が入ってきた。
その店員が桜佑達のいるカウンターに来たところで、桜佑は店員を見て目を丸くした。なぜなら、その店員こそが今朝の電車で桜佑を助けてくれた好青年だったからだ。
「あっ!」
桜佑は気付いた拍子に声を出してしまった。
そして好青年はその声に驚き “ビクッ” と反応した。
「あ、あなたは今朝の電車でお会いしましたよね。」
桜佑にそう言われた青年はきょとんとしていたが数秒後に気付いた。
「あ~あのときの」
「え、もしかして助けてくれた青年って、光琉くんのことだったの。」
突然のことに店長も驚いており、桜佑の隣に座っている友明は状況が理解できずに呆然としていた。
一時、カウンター席は驚きの声で騒然としていたが数分後には収まり光琉という名前であることがわかった青年もカウンター席の前に立った。
「へぇ~まさか光琉くんだったとはねえ、ほんと痴漢から助けるなんてやるじゃない。」
店長は桜佑を痴漢から助けたことを褒めていたが、光琉は『いえいえ』と手をヒラヒラさせて身振りしていた。
「いやー、こんなところでまたお会いできるなんてうれしいです。折角お会いしたので今朝のお礼をさせてください。」
桜佑は積極的に助けてくれたお礼がしたいと光琉に話しかけていたが、光琉は遠慮していた。
「いえ当然のことをしただけなので、そんなわざわざお礼なんて…」
「ったく、光琉くんたら本当に真面目ね。桜佑くんは本当に感謝しているみたいだし、一回ぐらい食事しに行けば良いじゃない。ほら、二人ともLINE交換しなさい。」
少し強引気味であったが、二人は店長に押されLINEを交換した。強引な形でLINEを交換したため、桜佑は光琉に対して申し訳ない気持ちだったが、当の本人は何食わぬ顔をしていた。
そこから先は、四人で少しの間だけ談笑をしたのち桜佑と友明は店を出て行き、カウンターには店長と光琉の二人だけになった。
「なんか光琉くんごめんね。私の悪い癖でつい無理やり後押ししちゃって。」
「いえ全然大丈夫ですよ。俺結構、引っ込み思案なので道子さんぐらいの明るい人がいたほうがいいですから。」
光琉は少し低いトーンの声で話していたが、表情はどことなく嬉しそうだった。
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