【2】 交流

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【2】 交流

 桜佑と光琉再会してから二日経った後、二人のLINEのやり取りは最初の挨拶とお互いの自己紹介のみであった。  この現状に対して仕事を終えて自宅のアパートへ帰り、仕事の疲れを癒していた光琉は悲観的になっていた。 「あれから桜佑くんとLINEのやり取りしていないなあ、俺変なこと送っちゃったのかな?」   光琉はベッドの上のぬいぐるみを抱きしめ、スマホを見つめながら悩んでいた。 「同じぐらいの年齢の人と連絡を交換したの久しぶりだったから嬉しかったんだよなぁ。」  ため息交じりに言ったあと、光琉はベッドに横になり眠りについた。    次の日、光琉はいつものように出勤し開店前の準備をしていた。しかし、浮かない顔をして準備をしていたため動作がおぼつかなかった。  そんな光琉の様子を見ていた道子は心配し声をかけた。 「どうしたの光琉くん? 体調悪かったら無理しちゃダメよ。」  道子に声をかけられた光琉はハッとして、咄嗟に作った笑顔を向けた。 「ぜ、全然大丈夫ですよ。」 「ふーん、そう。」  このとき道子は光琉が何か悩んでいるということに気付いていたが、無理に聞くことではないと思い様子を見ることにした。  それから約三十分後に開店した。その時は午後二時であるため客はまだいなかったが、一人男性が入ってきた。  このとき道子と光琉はカウンター席の近くに立っており、二人はドアの音に気付いた。 「いらっしゃい…あれ、桜佑くんじゃない!」  ドアを開けて入店してきたのはなんと桜佑であり、大きめのカバンを背負っていた。 「こんにちは道子さん、光琉さん。」 「こ、こっ、こんにちは。」  光琉は突然桜佑が来店したことに驚き、挨拶を噛んでしまった。 「桜佑くん大学は大丈夫なの?」 「はい。今日はたまたま大学の講義は午前中で終わりました。あっそうだ光琉さんに渡すものがありまして。」  そう言うと桜佑はカバンからどこかのお店の袋を出して、光琉に渡した。 「あの時のお礼です。受け取ってください。」 「えっ、そんな大丈夫ですよ!」 「いえいえ、ぜひ受け取ってください。あと同じお店で買ったものですが、よければお店の方達とどうぞ。」  そう言いながら別の袋を取り出し、道子に渡した。 「そんな私たちにまで、悪いわねぇ… えーっちょっと!! これ有名な老舗菓子専門店のやつじゃないの!?」  道子はとても驚いており、光琉もそれを聞いてさらに驚き桜佑に返そうとした。 「そんなもったいなくて受け取れませんよ! 私は普通のことをしたまでですから!」 「…じゃあお礼じゃなくてプレゼントです。受け取ってくれませんか?」  桜佑も負けじと菓子を渡そうとしていたが、光琉は申し訳なさそうに抵抗した。 「やはりでも…」 「光琉さんのことを考えて選んできたので!」 “キュン…” 「うぅ…。わかりました。ありがたくいただきます。」   光琉は胸が締め付けられるような痛みを感じ、根負けしてお礼を受けとった。  一瞬の出来事であったが、それを横で見ていた道子はただ者ではないという目で桜佑を見ていた。 「ではこれで失礼します。」 「あら店でゆっくりしていけばいいのに。」 「すいません。これからバイトがあるので。」  そう言って桜佑は店を出ようとしており、それをみた光琉は焦っていた。 (こんな良いお礼をしてもらって自分は何もしなくていいのか? いやよくない!) 「あの!」  桜佑は光琉に声をかけられ振り向いた。 「はい?」  光琉は菓子を頂いたお返しをしようと思い桜佑を呼び止めたが、何を言うのかをきめていなかった。 (やばい、どうしよう。) 「…… 」  約二秒間沈黙した後、光琉は口を開いた。 「明日、時間は空いていますか?」  桜佑は少し考えた後、 「夕方からなら空いてますよ。」 と答えた。 「ではその時に一緒にご飯に行きませんか。先程のお返しです。」 「それでしたら午後五時半ぐらいにしませんか。良いお店知って、」 「いえ、お店はこちらで選んでおきます。あとお返しなのでお支払いは私がします!」  桜佑は光琉の急な積極的な発言に圧倒されたが了承し、店を後にした。  桜佑が立ち去った後、光琉はカウンターに手を付けたまま膝から崩れ落ちた。 「ちょっと光琉くん大丈夫?」 「すっごく、緊張しました。」  呼吸は荒れていたが、数分後、光琉はなんとか立ち上がった。 「さっきの積極的な光琉くん、初めて見たわねえ。一体どうしたの?」  深呼吸を数回行い落ち着いた後、光琉は口を開いた。 「なんでしょうか。ただ純粋に桜佑くんと仲良くなりたかったというか…なんというか。」  光琉の発言はしどろもどろしており、耳が少しばかり赤くなっていた。  その様子を見ていた道子は何かを悟り、口元がニヤけ、温かい目で光琉を見ていた。 (あーどうしよう。俺絶対変だったよね。嫌われていたらどうしよう。)  光琉は自分急に積極的になったことを思い返し恥ずかしくなり、悲観的になっていた。  一方店を出て家路を歩いていた桜佑は、 (明日光琉さんと食事かー… 何を着ていこっかな~。) 明日の食事を楽しみにしていた。 そしてその夜、光琉は桜佑にLINEを送った。 光琉・・・夜遅くにごめんなさい。明日の十七時三十分にカフェバー近くの駅      前に集合ということでいいでしょうか? 桜佑・・・全然大丈夫ですよ! 大学の講義が終わったら直接向かいます。 光琉・・・わかりました! では明日お会いしましょうね。 桜佑・・・はい! 楽しみにしてます!!  LINEのやり取りが終わった後、光琉は緊張がほぐれてベッドの上で大の字になって余韻に浸っていた。 (ちゃんと連絡できて良かった。明日たのしみだなあ。)  しばらくしたあと、光琉は眠りについた。
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