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エピローグ
十一月の末、この時期はすっかり肌寒い風が吹いており、長袖でないと過ごすことが難しくなっている。そんな季節になっても大学へ行くための通学電車に僕は乗っている。電車の中は満員で、そのためか暖かかった。 そして今、僕は痴漢されている。満員のせいなのか周りの人たちは気づいていない。他人に自身の殿部を撫でられる感触は、非常に不愉快だ。もっとも、男である僕が痴漢にあうなんて想像もつかなかった。
「ちょっと! いけませんよね!」
この言葉が聞こえてきたと同時に殿部の感覚が消え、僕は後ろを振り向いた。そこには自分より身長の高い好青年が痴漢犯らしき男の腕を掴んでいた。
『品川~品川~』
次の駅に停まったその瞬間、男は青年に掴まれていた腕を振り払い颯爽と電車から降りて、逃げて行った。
「あちゃ…逃げられちゃった。」
好青年はしばらく電車の外を見た後、僕のほうを向いて話しかけてきた。
「大丈夫でしたか?」
「…大丈夫です。」
僕と好青年は電車を降り、改札口を出たところで僕はお礼を言った。
「先程はありがとうございました。助けてくれたお礼がしたいのですが…」
「いえいえ、お気遣いなく。自分はこれから仕事があるのでそれでは。」
青年はそう言ったあと、ホームの人ごみの中へと消えていった。一人残された僕は助けてくれたお礼ができず、もどかしくなっていた。
あの後僕は、大学へと着き、いつものように一日を過ごした。けど、考えるたびにふとあの好青年を思い出してしまう。
「桜佑、どうしたんだそんな顔して。」
今僕に話しかけてきたこの男は、親友の友明で高校の時からの付き合いだ。友明はいつも僕の相談に乗ってくれる頼れる男で友達思いなやつだ。
「また顔に出てた?」
「うん、いつも通り顔に出ていた。何かあったのか?」
そして僕は朝の出来事を話した。
「なるほどな~。つまりおまえを助けて売れた人にお礼ができなくてモヤモヤしていると。にしてもほんと律儀だね~。」
「律儀なのかはともかく。このモヤモヤ、なんとかならないかなぁ。」
友明は少し考え、口を開いた。
「よし! 呑みに行こう!」
「え…なんで?」
突然な友明の意味の分からない発言に僕は困惑した。
友明はそんな僕に構わず、無理やり連れて行こうとした。
「今日はもう講義ないだろ。さっさと行くぞ。」
「ちょっと! 僕酒が苦手なのだけど!」
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