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「あんた何事だい?」男の妻が聞いた。
「バードイが出たんだよ!」
「バードイって……あの? まさか! 何かと見間違えたんじゃないのかい」
「茶色くて小さくて汚らしくて。あれがバードイじゃなかったら何なんだ!」
興奮した男の声が大きくなる。
「ちょっと落ち着きな。誰かにそんなこと言ってごらんよ、私たちゃとんだ笑われ者さ」
「本当なんだよ! 放っておくと危険だ。幻魔生物管理局に通報する」
「およし! たとえ本当だったとしてだよ——」
男の妻は厳しい口調から、なだめるような柔らかい口調に変えた。
「あんたはそれを捕まえたわけじゃない。バードイは絶滅したって言われてるんだ。実物もないのに誰があんたの言葉を信じる? 本当にそれはバードイだったかい? 図鑑に載ってない幻魔生物だってまだまだ沢山いる。そうだろう?」
しばらく無言になった男は、妻の言葉に落ち着きを取り戻し、本当に自分が見たものはバードイだったのかと自分に問い直した。
「……たしかに図鑑で見たものとは少し違っていた。腕も足も痩せて骨ばっていて、頭とお腹だけが大きかった」
男はみるみる自信を失っていった。
「それであんた、ヤツには触れてないだろうね? 私にプロポーズした場所は? 覚えてるかい?」
「おおハニー、俺のことを心配してくれてるのか? もちろん覚えてるさ! オリーン・マーケットでトマトを手に取って——」
「それさえ覚えてれば大丈夫だね。さあ、食事にするよ」
男も妻も満足そうな顔で食卓に並べた料理を食べ始めた。
空腹が限界を迎えたバードイは、なんとか向かいの家の庭まで力を振り絞って移動した。
この家で食べ物にありつけなければ今度こそ自分の命は尽きるだろう。そう確信した。
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