77人が本棚に入れています
本棚に追加
「彼氏がいるみたいだって感じた時、すごくツラかった。だったら、いっそ会わない方がよかったって、思った。でも、センセが失恋して、公園で泣いていた時、チャンスだと思った。もう、この機会を逃したら、もう、センセを手に入れるチャンスはないかもしれないって……だから、強引に、奪っちゃった……ゴメン」
ポロリ、と尊流の目から、涙が一筋流れ落ちる。それは、とても綺麗で。あの時、泣いていた小さな男の子の顔は、もう思い出せないけど、きっと、こんな顔をして、泣いていたのかもしれない。
私は、その涙を、指先でそっと、ぬぐいとる。
「……謝らないで。私も、幸せだったから……ううん、幸せなんだよ、今も。こうやって、尊流と二人でいられて、とっても幸せ。尊流が、強引に奪ってくれなかったら、私は、きっと尊流とは、一緒になれなかった。だから、いいの、嬉しいの」
「……センセ……舞子……」
フワッと、尊流が、私の首筋に腕を巻きつける。そのまま、私の体を引き寄せて。
「好きだ。舞子。これからも、ずっと、愛してる」
耳元で囁いて、それから、私の顔を見る。
「私も、好きだよ。ずっと、ずっと、尊流を、愛してる」
尊流の目を、しっかり見つめて。それから、尊流の顔が近付いてくるのに合わせて、目を閉じた。
合わさる唇。
さっき食べた、尊流の手作りクッキーの味。ちょっと焦がしてしまって、ほろ苦い、でも甘い。
尊流が、私のために、初めて作ってくれたクッキーの味。
それは、他では味わうことが出来ないような、世界にたったひとつの、特別な口づけだった。
最初のコメントを投稿しよう!