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少年が、世界を救った。
*
世界を救う少年に恋をした。叶わない恋だった。
少年は寡黙な稀人だった。自らのことばといのちを捧げ、こころとからだを純真無垢な少年に漂白し、多元宇宙に存在する数多の世界、その危機に来訪しその世界を危機から救う者になった、ということらしい。
少年は助けを求める声に応じて現れ、危機の解消、消滅とともに世界から消える。
「ありがとう」「ありがとう」
その言葉が大嫌いだ。少年が、救った世界の人々から口々にその感謝を受けて本当に嬉しそうな顔をするのが許せなかった。そう彼を仕組んだ何らかの存在が許せなかった。感謝をしたら、そこでその関係は終わり。新たな関係になるか、それっきり。体の良いサヨナラだ。
私も、彼によって救われた数多の世界の一つ、その中の一人の人間だ。その時彼に恋慕し、どうにかして彼にまた会えないか彷徨い、偶然、動機は別だが同じように彼を追っていくつかの世界を渡り歩いていた人にであい、彼のおよその存在、世界の渡り方など様々な方法を教わった。自らが年齢を重ねるのを避けるために私の世界の時を止めた。世界の色、言葉、感情を知った。そうすると、幾重にも重なる泡沫の中から、彼の降り立つ、危機の世界が見えるようになった。
彼を追って、彼を追って、絶望だけが重なっていった。
救済のために降り立つたびに、彼はリセットされている。世界を救う全てを持ちながら、彼は彼をもっていない。私のことも、毎度毎度、その世界の人としてのハロー・アンド・グッドバイ。
世界への憎しみが、彼への執着が、ある世界にいるときについに爆発した。それはその世界を呑み込んで変成させた。世界は当然彼を要請する。だからそうして降り立った彼を離さないよう、全て彼を誘惑し飲み込むためのわなとした。
*
「……おかげで、無事この世界は救われました。D.R.E.A.Mに呑まれたこの世界はまもなく本来の姿に戻り、この世界に住んでいた人々も元のように戻ってきます。……とはいっても、その『元の世界』をあなたは見ていませんけれど」
私の夢。少年への執着が消えていく。
この「私」は、少年に対する味方、この世界で唯一生き残った原生人類を装って彼のサポートをしながらに誘惑を行う存在であった。しかし全て退けられ、彼はこの世界にて成す全てを終わらせてきた。
「それでは……」
少年が手を振る。あわせて私も手を振りながら、思いを馳せる。
私が私の世界を止めて、それまでより遥かな時間をかけてきた人生は全て無に帰した。これから私は私の世界に戻って、彼のことなんかすっかり忘れ、今まで浪費したより遥かに少ない時間で、知らない恋愛をし、知らない人生を送るのだろうか。
ならば。
「……ありがとうございました。お元気で。」
本当にここで、お別れなんだ。
私の頬を伝う涙の筋を、私も少年も見なかった。
少年の消え方が今までと違ったのを、私が理解することはなかった。
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