涙色のハンカチ

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 普段よりも少し早く家に着く。  ごく普通のアパートの二階、角部屋。鍵を開け、誰もいないであろう空間に「ただいま」と呟くと虚しさが増していった。  制服を脱ぎ部屋着に着替えた俺は、特にすることもなくテレビつけていた。  今日一日を振り替えるニュースがやっていて、グラスに入れた水を飲みながらつまらないニュースを眺めたいた。  つまらない時間程、ゆっくりと流れていく。やがて、時刻が十八時を過ぎ母さんが帰宅する。  右手には沢山の野菜と飲み物が入った袋。左手には、ポストに入っていたであろう郵便物。 「ただいま~」 「おかえり~。今日部活なかったわ~」 「あ、そうなの?じゃあ休めたんじゃない?」  母さんは笑みを浮かべていた。だから、俺は気持ちが少し軽くなって母さんにも負けない笑みを浮かべてしまった。 「まあ、ぼちぼち休めたかな」  俺は家族が好きだ。その気持ちが単純なだけ子供ということなのかもしれないが、あまり気にはしていない。  母さんは鼻唄混じりにキッチンに行くとひき肉を袋から取り出した。 「今日の晩御飯はいつものじゃないの?」  そう問いかけると、母さんはまたしても申し訳なさそうに笑みを浮かべ呟いた。 「いつも我慢してくれてる優一に御褒美で、今日はなんと!ハンバーグ!」 「おお!まじか!」  これは予想外のビッグニュースだった。俺はハンバーグが大好物で、誕生日なんかはいつもハンバーグを作ってもらっている。 「すぐ作っちゃうから、机片付けておいて~」 「了解です!」  あからさまに喜んで見せる俺を見て、母さんは苦笑していた。こんな一時が俺にとっては幸せなのだと心から思わされる。  俺が机を数分かけて片付けるとキッチンからお肉を焼く音が聞こえ出した。それと同時に香ばしく食欲をそそる匂いが家中に広がった。  片面に焼き色をつけ、ひっくり返し返すと、母さんは蓋を閉じた。 「五分くらいかな?このままで中に火を通すの。そしたら完成だよ」 「おお…」  俺が頷きながらも、まだかまだかと母さんの周りをうろうろしていると、母さんは楽しそうに「座ってなさいよ」と口にした。 「んー、待ちきれない!」  母さんは俺がハンバーグを楽しみにしているからキッチンを彷徨いていると思っているのだろう。  俺はただ、久しぶりに楽しそうな笑みを浮かべる母さんと話したいと思ったそれだけなのだがな。  そんな、平穏で幸せな時間を遮るようにインターホンのベルが鳴り響いた。 「あっ」  俺が声を漏らしたのは、母さんが火を止め、焼き途中のハンバーグを皿に移し変えたからではない。  例のが来たような気がしたのだ。 今日は母さんに頼まれるまでもなく、受話器を手に取った。
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