涙色のハンカチ

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 家を飛び出した俺は近所の川辺に来ていた。土手の草に腰掛け揺ったりと流れる川を見つめ、声を漏らす。 「こんな家に生まれたくなかった…」 「ふーん、何かあったのか少年!」 「うわっ、」  屈んで僕と視線を合わせたお兄さんの存在に今の今で気がつかずに声をかけられ、驚いてしまった。  お兄さんはあははと笑いながらも話を戻す。 「それで何を悩んでるんだ?」 「お兄さんには関係ないです」  お兄さんはうんうんと頷いた後に人差し指をたて口を開いた。 「関係のある人には言いづらいことは関係の無い人になら言えるものだぞ、」  確かに関係の無い人にならいくら話しても意味はない。悪い方向にも良い方向にも進みやしない。だとしたら、俺は今の思いを誰でも良いからきいてもらいたかった。だから、これまでのことを大まかにだが説明した。  話終えるとお兄さんは真面目な表情で「家族は好き?」と尋ねてきた。 「好きだよ。好きに決まってんだろ。お金もないのに俺を育ててくれたんだ」  何故だか、溢れ出した涙が止まることはなかった。人は意外と理解し得ない場面で涙が出るのだと初めて知った。  お兄さんは、僕に水玉模様のハンカチを差し出し、優しい声色で話し始めた。 「少年。君はなんでも我慢しすぎるんだよ。本心を言ったって良いんだ」 「でも、俺の家は皆と違って…」  俺の言葉を遮るようにお兄さんが優しく微笑み言葉にした。 「…。喧嘩したって良い。わがままを言ったって良い。迷惑なんてかけられるのが親の役目みたいなものだよ。君がお父さんとお母さんを気遣ってしてきた行動はさ、」    お兄さんの言っていることが分からない程に俺はバカじゃない。 「けど…」  お兄さんは静かに頷いた。 「分かってるよ。迷惑をかけることが悪いことのように感じるんだろ?」  お兄さんは俺の気持ちを完璧に理解してくれているよで頷くこと以外にすることはなくなった。 「君はわがままでいいんだよ。迷惑だってかけまくっていい。それが普通なんだ。それでももし、君の中に後ろめたさがあるのなら」  川の流れはどの時間でも緩やかで吹く風は少し強く、それでも気持ちよくて俺の心の湿った土を乾かしてくれるようだった。 「もう、大丈夫そうだね?」  お兄さんは、安心したように声を漏らすと俺に背を向け歩き出した。  風は強くて声が届くかは分からない、けれど俺は言葉にする。心の底からの想いを乗せて。 「お兄さん!ありがとう!」
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