僕を産んでくれてありがとうとは思わない

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「パパのちんちんはきれいだけどなあ」 「きれいなのはお風呂の後だけだね」 「そう?」 「……パパってさ、ママにも僕と同じようなこと言われてたでしょ」  パパの纏う柔らかな空気が一瞬固まってドキリとした。その数秒後、 「……な、何でわかるのぉ~!」  先ほどの緊張感が嘘のように、パパの周りの空気がとろっと溶けて広がった。 「そりゃわかるよ」 「お腹の中で聞いてたのかな」 「聞いてなくてもわかる。ママの子どもだし、パパを見てればわかる。……ほら靴下がベッドの奥にまた三足溜まってたよ」 「溜まってるんじゃなくて、パパは一日に三足の靴下を履くから……」 「んで、次からは洗濯かごに入れてね。入れてなかったら二度と洗濯しないからね」  パパから返事がなかったので、落ち込んだのかな、言いすぎたかな、と少し反省してパパをチラ見すると何のことはない。パパはパソコンでゲームをしながら、さらに別のモニターでアニメを見てへらへらしていた。僕の話なんかまるで聞いていない。 「パパぁ~っ!」  僕を産んでくれてありがとうとは思ったことがない。かといって、産まれてこなければよかったとも思わない。ママがいてもいなくてもパパが変わらないように、僕がいてもいなくてもパパは変わらない。  ただ欲を言うのならば、次があるとするならば、パパの薄汚れたよれよれの靴下の(にお)いをママと一緒に嗅いでクサイと言ってハサミでザクザクに切り裂いて共犯者になりたい。  僕一人ではさすがにパパに怒られるだろうが、ママと二人ならパパは怒らないと思うから。  背中からは、相変わらずご機嫌なパパの鼻歌とアニメのBGMが聞こえた。 (了)
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