あいさつ

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親族集落で成り立つ谷間(たにあい)の村は 少し行っては停車して 「こんにちはァ!居てる?」 佳乃が声を張り上げると 「居てる!居てる!」 「待ってたわ」 などと笑顔で人が現れる。 ある家では 「スイカ食べていってよ」 ある家では 「一緒にゲームしよう!」 子供に手を引かれたり。 一軒に声かけると、両隣が 一斉に登場することも。 「今、洗剤の詰め替えしてたわ」 そういう老人宅では 「やろうか?」 という佳乃に代わり、 「じゃあ、私が!」 香澄は率先して詰め替えを。 『よろしくお願いいたします』 の言葉が慣れてきた 15軒あたりを過ぎたころ、 香澄は、 (この菓子折、一つが五千円として  ・・・まだ家に残っていたのを  勘定したら・・・四十万、五十万  ・・・圭の家で用意して貰うのが  常識なのかしら・・・それとも) 思慮なく、母親に教わることもなく やってきてしまった自分が 恥ずかしくなって 「圭“さん”・・・この菓子折代金」 そっと助手席から圭の顔を窺うと 「香澄ちゃんのお母さんとお父さん、  御二人で用意なさったんやで。  あとで電話して、キチンと  御礼をいいなさいよ、圭も」 後ろから佳乃が穏やかに返答。  
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