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二人三脚で再び
その二日後…、トシヤは職場へ復帰した。
指示通り、通常より30分ほど早く出社し、中原課長との申し合わせを持った。
「課長、この度は多大なご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。謹慎期間は大変有意義に過ごさせていただきました。今後とも、本PT、よろしくお願いします!」
まずはこう反省の弁を述べ、立ったまま頭を下げた。
「いい顔で戻って来たわね、風間君。まあ、座って。一昨日のB子ちゃんからの連絡は私の指示だから。あの子があなたに告げたことは、私が伝えておきたかったことだと承知しておいて」
「課長…、じゃあ…!」
「うん…。とにかくレジェンヌのPTはあなたのカムバックと同時に即加速するわ。まず、新体制の九州支社に飛んで。前回の仕切り直しを思いっきり、担当部署に持ちこんできて欲しいの。手法は今まで通りで構わない。そうね、明後日から2泊でどう?」
「ええ、大丈夫です。各支社のHPはむしろ謹慎中の方がじっくり注視できましたから。即、対応取れます」
「そう。それじゃあ、この5日間の動きをざっとね…」
「はい…、あっ、その前にB子ちゃんに頼んだ僕からの伝言なんですが…」
「ああ…、”あれ”なら承知よ。あなたと私はあのくらいのシグナル、互いにツーカーでしょう?」
ここでアキは、何ともさわやかな笑顔を浮かべた。
それはトシヤに向けて…。
もっとも、いきなりなこのスマイル光線で、さっそくトシヤの下半身は敏感に反応してしまい、困った症状は相変わらずだったが…。
が、しかし…。
彼の体は”反応”しても、彼女に向きあう気持ちという目は、以前と違っていたのだ。
この日、中原アキと風間トシヤの二人三脚のひもは、さらに強く結ばれることとなる…。
***
俄然、二人は以前を上回る”脚力”で疾走した。
秋も本番を迎える頃になると、6つの各支社においても、モニターキャンペーンのモードが目に見えて盛り上がってきた。
何しろ、全支社共に各HPにおける当該コンテンツのアクセス数がどんと右肩上がりにアップしていったのだ。
加えて、チャットや書き込みのユーザー登録数・投稿数共に激増したことで、各支社はこれに呼応した新戦略を本社PTに提案するという好循環を生んだ。
この時点では、年末前のキャンペーン終了時を待たず、本社サイドではレジェンヌを次期正規新商品にする方針が概ね定まり、そのレールに乗っかるいう流れができていた。
しかし、レジェンヌPTを引っ張るアキとトシヤは気を抜かなかった。
こまめに各支社とのコンセンサスは保ちながら、その一歩先の動きを読みとることに主眼を置き、試供品の増産を本社に要請するタイミングなどはは、まだ各支社の盛り上がりが顕著となる前だった。
そんな経緯もあって、PTの的を得た分析力と機敏な行動力を本社サイドは高く評価するに至っていた。
***
11月半ばになると、いよいよ、レジェンヌの試供品モニターキャンペーンは佳境に達し、全国の若い女性層を中心として、厚手のたらこ唇女子によるサイトまで誕生…。
水面下の”世の中”は、もはや”厚手の唇”を持つ女性を美しくリバースする魔法のスティック、”レジェンヌ”市場降臨を待望するムーブメントが、その輪郭を現し始めていたのだった…。
「風間君…、いよいよ各支社のモニターのお披露目よ。その際の各支社から打ち出されるサイネージの趣向はあなたの報告通り、そのままでいきましょ。それで…」
「はい…、本社HPでのポーズショットの女性ですね。その披露目の方ですが…、先週からそのタイトルキャッチを”ミス・ミステリアス”レジェンヌ”という、それこそ本物のレジェンヌ試供品で紅書きした文字画像をアップしてます。アクセスもどっと増え、SNSじゃあ、新商品販売を見越したイメージキャラクターだという声が多数を占めてますよ」
「うん…、要はあの唇の主、芸能人やタレントでしょうって…。私もさらっと目についたところじゃあ、○○××子とか××○○美とか…。そうそうたるところが次々とでしょ…。それで、どうなのかな…。私の顔はなしってことで‥」
「…」
「だって、さすがにここまでの展開は予想してなかったから…。下手に”何だ、自分とこのOLかよ、こんな顔でよくもミスレジェンヌだって笑っちゃうわー”、とかってなったら、せっかくここまでやってこれたのに、逆効果でしょ…」
アキはレジェンヌPTチーフ、風間トシヤに半ば訴えるようだった…。
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