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女課長の意地
「…この際だから、すでに態度を示しているヤマダ補佐とナカダ主任、それに反する提議をした風間君、責任者の私以外、一般職を含むこの場の全員に忌憚のない意見を述べてもらいましょう。一切、遠慮なしでいいわ。役職、立場無視で、我が課の岐路に対して私見を述べて欲しい。…じゃあ、順番は申し出順にする。さあ、意見がまとまった人から挙手して」
ここで一斉に中原アキ以外の女性陣二人が手をあげた。
二人は順番に以下の通り、課長の求めに対する意見を述べた。
「…私は派遣社員の身ですから、会社の事情は深く知り得る立場ではありません。その上で意見を求められれば、仮に正社員だったらという前提でですが、やはりリスクは最小限でって考えが基本んじゃないかなと思います。ヤマダ補佐はご自分の立場を踏まえた、至極妥当な意見で二課のためを思っての姿勢じゃないかと…」(契約社員A子)
「…一般論なら、A子ちゃんの言う通りだと思います。でも、我が課の今の局面なら、風間さんの見解が的を射てるんじゃないですかね?だって、私ら一般職の間でも、今回のレジェンヌがコケたら商品開発推進二課は店じまいだって見方してますよ、みんな。そりゃあ、この課がなくなれば次の配属先で頑張ればそれでいいやって、その割り切りも勤め人なら不思議ないですよ。でも、せっかく会社の期待を背負って、試供品段階まで来たんですから…。ここは中原課長と心中の覚悟を皆が持って、一丸でって気持ちはあってもいいと思うんですよね」(一般職B子)
”課長…、感慨深い表情だ。そうさ、一般職の女子職員でさえ、B子みたいな感覚を備える女性だっているんだ!さあ、今度は総合職の男ども4人だ。風見鶏かマングースか、ここで見極めてやるぞ!”
トシヤは後輩4人へ鋭い視線を注いだが…。
***
”全く…‼こいつら4人、ここまで揃いも揃ってとはな…。笑っちゃうわ。最も、レジェンヌが本採用されるなんてハナから考えてないんだし、さもありなんってとこか…”
彼ら4人は全員が、勝算が見込める具体的戦略プランであるなら、風間路線に賛同という姿勢を示した。
何のことはない…。
自分の逃げ道を確保した上で、レジェンヌプロジェクトへの献身を宣言したにすぎなかったのである。
「では、課長…。主だった職員は二課のレジェンヌ推進プロジェクトには、皆が納得できる具体戦略があれば全員、中原課長の元で総力を振る…。これを基本方針として、取り組みましょう。ナカダ主任もそれでいいかな?」
「ええ」
「それじゃあ、こうなれば何しろ、風間のプレゼン次第だ。課長、さっそく明日にでも、ここにいるメンバー全員の前で彼にレジェンヌ初期戦略のプランを提示してもらいましょう」
”おお…❕ヤマちゃん、そう来たか。ふん、どうせ明日はなんだかんだと難癖つけて、今日みたいに皆の顔色見ながら風間案却下に持っていく腹だろう…。上等だっっての!”
と…、トシヤが心の中で呟いていたところで、アキが口を開いた…。
...
「…ヤマダ補佐、そこでは風間君の提案だけなんですか?それだと、風間以外は審判の立場で彼の企画を丸バツ判定するするだけになるでしょ。せっかく、今日、レジェンヌを正規新商品化に持ってける戦略プランがあれば本社からの予算マックスを取って、思いきっり前に出ようって方針に定まったんですよ。ならば、数日をおいても、風間以外の総合職全員がラフ段階の各々マーケティング戦略を練って、その比較対象を経た上でベストな選別を踏むのが通常だと思うけど」
”う~ん…、やっぱ、課長もここは意地を見せてくれてるわ。ガンバレ❣”
トシヤはじっと彼女に視線をやり、エールを送った。
そして当の中原アキは、その視線も彼の思いもしっかり受け止めていた…。
「ええ‥。ですが、課長、そこは私を含め全員考えを及ばせたうえで、予算マックスを取りこんでまでのレジェンヌ戦略案は残念ながら難しいという結論を出したんです。ですから、今日ここで皆が慎重姿勢を打ち出したんですよ。しかし、いやいや、自分は策ありですよ。だから、二課全員で火の玉決戦路線で行こうと、風間が提案した。こう言う流れですよね?」
「そうですね」
「であれば、百歩譲っても、ここへきて本社プレゼンまでの時間はありません。なので、レジェンヌの積極戦略路線に行くか行かないかの二課決定は事実上、明日の我々による風間案採否で決することに行きつきます。私の言ってること間違ってますかね?」
したたかな課長補佐のヤマダにそう突きつけられ、女課長中原アキはそのまま押し切られるかに見えた。
だが…。
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