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「なぁ、天国って信じるか?」
「どうした、急に」
同僚からの突拍子のない質問に、食事をとっていた箸が止まる。
「いや、実は娘から天国や地獄がなかったら人はどこに行くのだろうと聞かれてな、答えに困ってしまってしまってるんだ」
「あぁ、思春期の子供が一度は通る悩みだな」
「俺はそんな事、考えた事もねぇけど」
「お前が楽観的に生きていただけだろ」
最初、同僚が変な宗教にでもハマったのかと心配したが、どうやら思い過ごしである事に気づき、再度箸を進める。
広々とした社内食堂の一角で、スーツを着た男2人が向かい合わせし座りながらする会話など、所詮このようなモノなだろう。
いつもと変わらない平和な日常の中、突然大きな変化が起こるなど普通はあり得ないのだから。
「だったらお前は昔考えた事があるんだな?」
気にせず食事を続けると、同僚がそれを遮るように食いさがって来た。
「そうだな」
「どういった結論に辿り着いたんだ?
娘が食事も喉を通らないほど酷く悩んでいるんだ」
「胡蝶の夢の話を知っているか?」
「こ、コチョウ?」
「中国の思想家が、自分の存在は今目の前で羽ばたいている蝶が見ている夢の住人で本当は存在しないのかも知れないと考えたそうだ」
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