本日のコーヒー

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ここは、喫茶エトワール。朝6時からのオープンでもお客さんはひっきりなしにやってくる。駅近すぐに大手コーヒーチェーン店があるのにわざわざ離れたここまで来てくれるお客さんは、本気(がち)のコーヒー通ばかりだ。朝は、おはようございます。昼は、こんにちは。夜は、こんばんは。と挨拶するのがここのしきたり。カランとベルの音がなって、反射的におはようございますと染み込んだ台詞を言う。 彼女はいつもスーツでビシッと決めて、ヒールを鳴らしてやってくる。朝は'いつもの'お客さんが多いから大抵言葉を交わすことなく同じように準備して渡す。けど今日は違う。彼女がブレンドと注文をしてバックに目線を落とした時に「あの、お姉さんいつもブレンド頼まれる方ですか?」と声を掛ける。 営業スマイルにならないように素の自分を出して笑いかけた。彼女の目線が僕と合えば少し戸惑っているようなそんな表情を浮かべ、えぇ、そうですねと冷静に返事を返され内心早まったかと思いながらも無視をされなかったことが嬉しくてやっぱり〜と素の状態で返事をできた。 「いつも先輩と後輩が話しているんです。ブレンドしか頼まない綺麗な人がいるって」 彼女の好きなブレンドが僕のものでありますようにと願いを込めて珈琲をカップに注いだ。ぼんやりとしている彼女の目線が僕の手にあることをいいことにこの日の為に用意しておいたマフィンとカップを紙袋に入れて彼女に差し出した。 「お姉さんの好きなブレンドが僕のだと嬉しいです。あと、僕の試作品でマフィン焼いたんです。良かったら」彼女はスッと目を細めてふわりと微笑んでありがとうと言って紙袋を受け取って店を後にした。 ー僕のブレンドが彼女の好きな味でありますように
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