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本日のコーヒー
仕事に行く前に必ず立ち寄る場所がある。有名なコーヒーショップが立ち並ぶ駅近を少し離れた所に、ひっそりと朝早くから開いてる"エトワール"知る人ぞ知る、本場の珈琲店だ。
いらっしゃいませではなく、おはようございますと店に入ると聞こえるその挨拶は、とても心地の良いものだ。
必ず私はいつものブレンドを頼む。1週間の内で好みのブレンドに当たるのは3回ほど。いつも好みの珈琲を飲めたら最高なのにと思いつつ、いつも通り注文をした。
「あの、お姉さんいつもブレンド頼まれる方ですか?」そっと視線をあげると若そうで若くない男性が笑顔でこちらを見ていた。えぇ、そうですねと答えればやっぱり〜と嬉しそうな表情を浮かべていた。まるで子犬みたいで思わず笑みが溢れる。
「いつも先輩と後輩が話してるんです。ブレンドしか頼まない綺麗な人がいるって」会話はどこでも似ているんだなと思いながら、お金を支払って彼がカップに珈琲を注ぐ手元をぼんやりと眺めていた。男性にしては細長く、すらっとしてるその手は好みの手だと勝手に思いを馳せていれば、その手には紙袋が握られていて私に差し出されている。
「お姉さんの好きなブレンドの味が僕だと嬉しいです。あと、僕の試作品でマフィン焼いたんです良かったら」その紙袋を受け取ってありがとうと伝えて店を後にした。職場につき落ち着いたところで紙袋から珈琲を取り出し口元に運ぶと、香りが周りに広がる。
ーーあぁ。彼の珈琲が好みだと、気づくのに時間はかからなかった。
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