第1章~はじまりの扉~

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第1章~はじまりの扉~

朝方雨が降ったのだろうか、 庭のティーリーフが濡れて雨粒が、キラキラと光っている。 風も匂いもあの時と変わりなく吹いている。 太陽も変わりなくジリジリと照っている。 家の奥で私を呼ぶ声。 優しい声が聞こえてくる。 声を聴きながら、そっと目を閉じた..... 「こなみー!早く早く始まっちゃう!」 「ちょっと待ってよー!」 そこは大音量の音楽がかかって赤や紫、ピンク、緑とキラキラした照明が目まぐるしくあたる大きなライブハウス。 「カイのステージ始まっちゃうよ!」 日系3世のハワイから来た、ヒップホップダンサーのカイ、かなりの人気者だ。 いつも沢山の女の子に囲まれているから、私なんか全然近付けない。 でも、バイト先が一緒だから、奴は気さくに声をかけてくる... 「アロハー!コナ~!終ったあと、ご飯行こーっ」 「アロハー!カイ、オッケー!」 (ほらほら、すごい目でこっち見てるじゃん!取り巻きちゃん達~) 「こなみのこと、睨んでるよ~アハハハ、笑っちゃうよね~」 「マユ、やめなよ~」 (カイもマユも、もう少し空気読めっつうの) 彼との出会いは私のバイト先だった。 後にカイもバイトすることになるのだが... 「あの、お姉さん、これロコモコじゃないですよ、ソースがグレービーソースじゃない!」 「え?ソースですか?ちょっと店長呼んできます」 まぁ、そこで30分近く言い争い、勝利の旗を掲げたのがカイなのは当然だった。 彼はハワイのロコボーイだった。 「いやぁ、君に教えてもらわなければ、ずっとこのソースのままだったよ」 「わかってもらえてよかったです、あの、僕バイト先探してるんですけど、もしよかったら厨房で働かせてもらえませんか?」 (はっ?!この人わかってて、いちゃもんつけた?バイト見つけるために言ったか?) 「店長、どうするんですか?」 「コナミちゃん、いい子じゃないかぁ。本場の子に伝授してもらえたらうちの店も繁盛するだろうし、彼イケメンだし、女の子のお客さんも増えるだろうし」 (おーい、そこかよー) と、いうことでカイは晴れてこの店、「ハレミノアカ」で働くことになったのです。 ハレミノアカとはハワイ語で。「笑顔の家」という意味だそうです。 このときはハワイ語なんて全然知らなかった私が、今後彼との出会いでハワイに大きく関わっていくなんて、想像もしてませんでした。 基本的に、定休日以外はほぼシフトに入ってる私。 要はフリーター。 カイは週3日で他はダンスを教えているみたいで、ただレッスンだけでは生活していくことが出来ないみたい。 まっ、彼女じゃないし、そこまで知らなくてもいいし。 ある日のバイト終わりの賄い中。 「コナ、実はさぁ俺さぁ....」 (え?そんなこと私に話していいの?) 話によると.... カイのおばあちゃんが日本人でおじいちゃんは根っからのハワイアン、 代々とても有名な家系らしく、 お父さんが引き継ぎ、 長男であるカイが次を引き継ぐことに なってたそう。 なんの仕事かは話してくれなかったけど。 で、カイは後継者になる前に好きなヒップホップダンスで、日本で自分の力を試そうと来日した。 日本にいるおばあちゃんの妹の娘さんの家に居候させてもらってる。 国籍も日本とアメリカ両方持ってる。 でも後継者はお姉さんになるとかという話も出ているらしく。 なんだかもめているらしい。 カイはヒップホップダンスが好きで、中学生の頃から踊ってたみたい。 ハワイでは有名な格式高い高校に行って、大学にも行ったけど、1年で中退してこっちに来た。 そして3年経ったらしい。 そろそろハワイに帰国しないといけないみたいで、突如私にも一緒に来て欲しいと言い出した。 (えーーー!なんであたしが一緒に行かなきゃならんのよ!フィアンセでも恋人でもないのに) 「カイ、ねぇ、なんであたしが一緒に行くの?あんたさぁ、他に何か重要なこと隠してない?」 「いや、ない。あったとしても今のコナに 話しても理解してもらえないから」 (カチンときた!) 「ふざけないでよ!そこまで事情話して おいて、何言ってんのよ!あたし一緒にハワイなんか行かないからっ!」 (ん?ちょっと待てよ、そんなこと頼んでくるんだから渡航代はカイ持ちか?) 「コナ、怒らないでよ。向こうに行ったら、何もかも君に理解してもらえるんだ。コナには何も払わせないし」 (ほいきたー) 「え?マジで?」 「うん、マジ」 (ただでハワイに行けるなら行ってもいいかなぁ~) 「とりあえず店長に聞かな..」 「あ、店長にはもう話してあるよ、俺とコナは来週から休むって」 (は?この人どこまでマイペース、いや自分勝手なの?) 「あのさぁ、あたしカイの彼女でもなんでもないよね?」 「いや...あの..その...彼女としてフィアンセとして行って欲しいんだ。」 (はぁーーーー???) 「ホントにならなくていいんだ、ふりだけしててくれればいい」 (はぁぁーーーーーー?????) 「なにそれ!?」 「一生のお願い、聞いてくれないかな?」 (カイくん、どこまであなたは勝手なの?) 「いいけど、ふりだけしてればいいんでしょ?」 「うん!ありがとう!」 (ま、ただで行けるなら、ひと肌脱ぐか~) カイの突然の戦略にまんまと乗せられた私。 このハワイへの旅で、自分の人生が変わることなど知るよしもなかった。
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