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第2章~責任~
「こなみ、忘れ物ない?パスポート持った?」
「持ったわよー、もう子供じゃないんだから」
(ったくいつまで経っても子供扱いで困るわ)
「じゃ、行ってくるねー」
カイとは空港で待ち合わせした。
(えっと、ハワイアン航空だから、あっちか)
遠くに現地の人にしか見えない様な人が
手を振ってる。
(ん?誰..だ?)
カイだった。
スカイブルーのシンプルなアロハシャツに
ジーパン。
いつものヒップホップスタイルの
カイじゃない、別人のような姿に目が釘付けになった。
「カイ?その格好...」
「えへへへ」
笑った顔もなんだか別人に見えた。
「似合うじゃん、さすが~」
「まぁね。さっ行こう」
と私の腰に手を回すカイ、ドキッとした。
(なに?もう恋人のシチュエーション?)
「あ、う、うん...」
チェックインカウンターでカイのパスポートを見て、彼の本名を知った
とにかく長い名前だった。
(読めないし~。これ英語?ハワイの言葉?)
「長い名前なんだね」
「まぁね、おじいちゃんがつけてくれたんだ」
(そういやぁ、あたしの名前もおじいちゃんが、縁起のいい画数でつけてくれたって聞いたことあるなぁ)
「ねぇ、おじいちゃんは何してた人なの?」
「それは向こうに着いたらわかるよ」
(くそー!まだもったいぶって言わない気だ)
「はいはい、わかりましたー」
キラキラとダイヤモンドのような夜景を
下に見ながら、飛行機はハワイに向けて
飛び立った。
7時間後にはパラダイスなハワイが
私を待ってる....はずだった。
「コナ、起きて、もうすぐ着くよ」
「んー?あぁ...おはよう、カイ」
「ほら、見てごらん、下にオアフ島見えてきた」
アイマスクを外して窓の外を見てみる。
そこには言葉に表せないような色の海に
浮かぶ島があった。
「綺麗!あ、大きな戦艦が停まってる~」
「あそこはパールハーバーだね」
(おぉ、映画で観たなぁ、実はハワイ初めて
なんだよね、私)
キャッキャッはしゃぐ私の隣で、
何やらお経みたいな呪文を
小声で言ってるカイ。
(何?どした?この人何言ってるんだろ?)
「カイ?」
「.......」
「カイ??」
「あ、ごめんごめん。そろそろ着陸するからベルトして」
「あ、うん、わかった」
(なんの呪文だろ?まっ、いいや)
飛行機から降り立ち、イミグレーションも
無事に終えて外に出ると
日本では嗅いだことのない匂いと
大きなヤシの木とジリジリとした太陽。
(来たぁ~!ハワイ!)
思いっきり伸びをして深呼吸...あれ?
カイがいない!!
遠くから私を呼ぶ声がする。
(いた!やめてよ、初っぱなから迷子なんて
勘弁...)
カイの回りには沢山の人達、何?
男の人とキス!じゃなかった鼻と鼻をつけてる?
みんなに同じことしてる!
初めて見る光景だった....これがハワイアンの挨拶なの?
カイが私の腰に手を回しグッと引き寄せて、
何やら英語で取り巻きの人達に言っている。
(何言ってるのかわからないけど、きっと
私のこと紹介してんだろうな)
「ハジメマシテ」
(あら!日本語喋れんじゃん)
「あ、は、はじめまして」
「ワタシハカイノオカアサンデスヨクキテクレマシタ」
(カイのお母さん!)
「私は加藤小波です、よろしくお願いいたします」
「コナミヨロシクオネガイシマス」
ギュッと抱きしめてくれた、カイのお母さんは柔らかいクッションのようだった。
カイは近くにいた男の人と話してる、
眉間にシワを寄せてるその顔は
今まで見たことのない顔だった。
(カイ?どうしたの?)
目で合図した。
カイは大丈夫だよと言わんばかりの優しい
微笑みを私に返した。
(いや、何かただ事ではないぞ、これは...)
いくら天然ボケの私でも察しがつく。
それは当たった....。
「コナ、ごめん。プアラニと一緒に家に行っててくれる?彼女は日本語喋れるから」
「こんにちは、はじめましてプアラニです。プアって呼んでね」
見た目はどう見ても日本人には見えない
顔立ち、でも流暢に日本語を喋ってる。
「初めまして、コナミです。よろしくお願いします」
「じゃ、プア、あとはよろしく。コナ、心配しないで、すぐに戻るからさ」
「うん、わかった...」
カイは私の頬にキスをして大きな車に乗り込んでいった。
ドキッとした。
(そうだ、あたしカイの恋人役を演じなきゃいけないんだった)
「コナミ、こっちよ」
プアは私のスーツケースを持って手招きした。ついていくしかなかった。
よくお店で流れてるハワイのラジオ?FM?と
同じ感じのが車から流れてる。
車の窓から気持ちいい風が入ってくる。
「コナミ、ハワイは初めて?」
「あ、うん、初めて」
「どう?」
「すごく素敵!」
「よかった」
プアは美人という感じでなく、
可愛らしい感じだった。
笑うと子供みたいに可愛い。
「お兄ちゃんとはいつから付き合ってるの?」
(え!?)
カイの妹だった。
「あ、えっと、あの..2年前からよ」
「お兄ちゃんが日本に行って1年後だね、
どこで知り合ったの?」
事情聴取のような会話が続いた。
(役を演じなければ!)
そんなことを考えながらだから、
答えにつまることもあったけど、
とりあえず理解してもらえたみたいで
ホッと一息。
ホッとしたのか、グーとお腹が鳴った。
もちろん私の。
プアがクスクス笑ってる。
「コナミ、もうすぐ家だからね。ランチ
用意してあるから」
(ひゃー、恥ずかしい)
「うん、ありがとう」
海沿いの道を抜けて少し高台の方へ向かった。
車は今まで見たことのない大きな豪邸に
入っていった。
(え!なに?凄い家!!)
「着いたよ、コナミ」
(おいおい、カイは何者なんだよー)
恋人のふりをすることに了解してしまったことに後悔した瞬間だった。
「コナミはこの部屋を使ってね」
プアが窓を開けながら言った。
目の前には地平線が見える海だけの景色が
あった。
(生まれて初めてだよーこんな景色~)
「プア、この部屋は?」
「ゲストルームよ」
(ゲストルーム?凄すぎる!)
「さあ、下でランチ食べましょう、コナミ
お腹空いてるでしょ?」
「うん!お腹ペコペコ!」
正直に言ってみた、プアが笑った。
10人は座れるような大きなテーブルの上には、ホテルでしか見たことのないブッフェのような沢山の料理が並んでいた。
「好きなだけ取って食べてね」
「え?私だけだけどいいの?」
「もちろん!さぁ、食べて。
そのうちお兄ちゃん戻ってくるから」
(やばい、すっかりカイのこと忘れてた)
「じゃ、遠慮なくいただきまーす」
色気より食い気、まさに今の私にぴったりだ。
「プアは食べないの?」
「私は後で食べるから大丈夫、ちょっと
向こうの部屋で用事を済ませてくるから
ゆっくり食べていてね」
と言って行ってしまった。
大きな葉っぱの上にほうれん草と細かく裂いたお肉、どこかで見たことがある....
(そうだ!ハレミノアカで出してるやつと同じだ!)
なんで葉っぱに乗っかってるんだろう?
などと思いながらお皿に取ってパクつく。
(旨すぎる!お店のと全然違うじゃん!
店長にも食べさせたいわぁ)
お行儀が悪いのは承知の上で、広いリビングを食べながら見回った。
カイとプアの子供の頃かな?、
そしてもう一人の女の子が写ってる写真、
お姉さんかな?
家族写真、カイの高校の卒業写真も
飾ってあった。
そのうちの1枚に目が止まった。
(これは....)
大きな太鼓と大柄の老人と上半身裸の
筋肉モリモリな男の人とカイ?に似てる少年。
(いや、これはカイだ!)
「それはパパのウーニキの時の写真よ」
(ウニ?ウニキ?なんだそれ)
「お兄ちゃん、本当はパパからウーニキするはずだったの。その前に日本に行っちゃったのよ」
「プア、そのウニキってなに?」
「コナミはお兄ちゃんから何も聞いてないのね、話すはずがないか...」
(カイが向こうに行ったらわかるって
言ってたのはこのこと?)
カイの家は昔から代々受け継がれるフラの流派の家元らしい。
それもハワイではとても有名な流派。
亡くなったおじいちゃんからカイのパパに
受け継がれ、次はカイが受け継ぐことに
なっていた。
でもフラよりもヒップホップの方で活躍したいという夢を捨てられず、
3年間だけということと、
帰国しウニキする前に結婚もするという約束で日本に来日した。
日本に来る前はパパといつも揉めていたらしい。
その時からフラは踊っていないという。
そして、去年の暮れにパパは病に倒れた。
カイに引き継ぐ前に、結婚する前に。
そんな経緯を話しながらプアは泣いていた....。
(カイ、ダメじゃん、こんな大切なことなんで言わないのよ)
ランチなんか食べてる場合じゃないと思った。
泣いているプアの肩をさすりながら、
私の知らない世界が少しづつ
迫ってきていること、
そして事の重要さに
責任感を感じ始めていた....
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