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第3章~家族~
目を閉じて海の音と風を感じる。
カイはこんな素敵なところで育ったんだね...
リビングの外にあるプールサイドの
デッキチェアに座っている私の肩の横に
人の気配...
「コナ、何してんの?」
カイが帰ってきた。
「何じゃないよ!こんな重要なことなんで
早く言わないのよ!」
思わず肘でカイの胸を突っついた。
「ごめんよ、言ったら尻込みして
来てくれないんじゃないかと思ったんだ」
「あたしがそんな柔な女だと思ってたの?」
カイが笑った。
「いや、思ってない」
「もー!バカ!」
「パパの具合は?」
「プアから聞いたんだね。
あまり良くないんだ...あと1ヶ月持てばいい状態って言われた、でも意識はハッキリしてるよ」
(嘘!そんな大変な状態なの?)
「コナ、明日一緒にパパのところに行って欲しいんだ」
(やっぱりそうか)
「わかった、パパに会って安心させるんでしょ?」
「うん、そうなんだ」
「俺はパパからウーニキして、
この人と結婚するから、安心して、
早く元気になって欲しいって伝えたい...」
「私じゃなくても良かったんじゃないの?」
「いや...コナじゃないとダメなんだ」
「なんで?」
「今は言えない」
(でた!またもったいぶる)
「まぁいいわ!あたしにドーンと
任せなさい!」
「ありがとう、コナ」
「ねえ、お姉さんが引き継ぐって話は
どうなってるの?お姉さんは?」
カイはそこから黙ってしまった。
しばらく海を眺めていた。
「コナ、出掛けよう」
「え?どこへ行くの?」
「姉さんのところ、ハーラウ(フラの教室)だよ」
手を引かれて車に乗り込んだ。
ダイヤモンドヘッドを超えて
しばらく車を走らせるとまた海沿いの道に
出た。
カイはずっと黙ったままだった。
「もうすぐ着くよ」
静かな住宅街の中にこれまた大きな豪邸が
ドーンと建っていた。
(もしかしてこの家がハーラウってやつ?)
車を停めた。
(やっぱり!)
豪邸の中から美しい女性が出てきた。
カイのお姉さんだ。
プアとは違い、日本人に近い、
カイによく似ている顔立ちをしている。
ニッコリ笑った顔もカイにそっくりだった。
カイはお姉さんと鼻と鼻をつけてからハグをした。
何かこっちを見て話している。
お姉さんが近づいてきた、そして...
「こなみさん、初めまして。カイの姉の
レフアです」
やはり流暢な日本語だった。
「初めましてこなみです」
ハグをしてくれた。
「どうぞ入って、レッスン中だけど」
扉を開けるとそこには20人ほどの
お揃いのスカートをはいた人達が踊っていた。
カイが入ると踊るのをやめて、
一斉にみんなこちらを見た。
そして嬉しそうな笑顔を浮かべて「ハイ!」と手を振った。
カイって凄い!って思った瞬間だったと同時に遠くの存在に思えた。
1人づつハグをして再会を喜んでいた。
そしてみんな私にもハグをしてくれた。
英語だったけど、きっと初めましてって言っていることはなんとなくわかった。
「カイ、こなみさんに椅子を出してあげて」
「オッケー、コナ、ここに座ってて」
カイはそう言い、お姉さんと話し始めた。
生徒さん達は休憩をとってそれぞれ談笑し、
たまに私の方を見てニコッと微笑んでくれた。
(何か言われてるんだろうなぁ、
なんか居ずらいな、完全に場違いな人物に
なってる)
母と同じぐらいの年齢の人が寄ってきて
話しかけてきた。
「あなたはフラを踊らないの?」
日本語だった。
「あ、はい、踊ったことないです」
「あらまぁ、そうなのね、
カイが連れてきた人だからフラを踊れるのかと思ってたわ」
(なんかカチンときた)
「一緒に踊ってみない?楽しいわよ」
(やめてくれー、踊りだけは絶対無理、
無理無理~!子供の頃からリズム音痴で
有名だったんたから)
「さあっ、いらっしゃい!」
半ば強引に手を引かれて、
おばさま達の輪の中へ連れていかれた。
(カイー!助けてー)
カイは真剣な面持ちで眉間にシワを寄せて
レフアと話をしていた。
おばさまのうちの1人がウクレレを持ち出し
弾き始めた。
「さあ、音楽に合わせて私の真似してみて」
(やだぁ~無理だって~笑われる~)
「1、2、3、4..そうそう!その調子!」
(なんだ?なんかステップ踏めてるかも
あたし!)
「上手いわよ、とっても」
「え?ほんとですか?」
「GOOD!」他のおばさま達も英語で誉めて
くれた。
(やだぁー出来てるあたし、なんかすごく
楽しい!)
いつの間にかおばさま達の輪の中に
溶け込んでいた。
「次はハンドモーションね、これがお花を
表す手よ。
フラはね、手話のように手の動きで
歌の意味を表すのよ」
そう言って指先を集めた蕾のような形を
見せてくれた。
(花ってさ、幼稚園の時のお遊戯のでやった
指広げてやるやつじゃないの?)
ビックリだったけど、それはとても美しい形をしていた。
「そうそう!上手に出来てるわ」
見様見真似でやってみた。
(フラっておばさんがするもんだと
思ってたけど、やってみると楽しいんだ~)
「コナ、上手いじゃん!」
カイが見ていた。
(ギャー恥ずかしい!)
「とっても上手いわよ。あなたもすっかり
オハナね」
レフアが言った。
(オハナ?お花?あぁお花の手をしたからか?)
「コナ、オハナって家族って意味だよ」
(え?家族?結婚もしてないのに家族?)
「フラの家族よ、ここに居るみんなは
同じものを共有しているフラの家族。
あなたもよ」
おばさまが言った。
なんだろう..なんだろう...
なぜか涙が込み上げてくる、なんで?
あったかい、すごくあったかい、
懐かしい感じ。
包まれている感じ。
これが俗に言うアロハってこと?
カイが寄ってきて抱きしめてくれた。
「コナ、泣かないで」
その瞬間、私は遠くに感じていたカイに
少し近づいた気がした。
彼が歩んできた私の知らないカイの世界に1歩だけ踏み込めたような気がした...
カイの胸はとっても居心地がよかった...
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