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第5章~虹~
「わぁ~おっきい~色も可愛い」
ピンクのグラデーションのハイビスカスが、咲いていた。
「うわぁ!黄色も可愛いねー」
子供のようにはしゃぐ私を、カイは微笑みながら見ていた。
「フラってこういうのつけて踊るんでしょ?」
「そうだね。あとは花を編んだりして、頭につけるんだよ」
「あぁ~知ってる!花冠ね」
カイが苦笑した。
「うーん、日本でよく言われてる花冠とは、少し違うんだよ」
「だって輪っかにすればいいんでしょ?」
「レイや頭につけるのも、ちゃんと流派があって、作り方も様々なんだよ」
(奥が深いんだ、知らなかった)
「カイは、作れるの?」
「いや、うん、作れるけど、プアが、1番上手いかな」
「私、作ってみたい!」
思わず言ってしまった。
(リズム音痴な上に、手先不器用な私が、よく言えたもんだ)
「プアにお願いしておくよ」
「うん、楽しみ!」
静かな住宅街を2人で歩く、ただそれだけなのにすごく楽しい。
鳥の声、風で葉っぱが揺れて、かすかに音が聞こえる。
(年をとって老夫婦になったら、こんな感じなのかな~?やだ!あたし何考えてるんだろ)
「コナ?どうした?」
「ううん、なんでもない!」
少し歩くと、大きな木々がある広い場所に、着いた。
「少し休もうか?」
「うん」
少し距離をおいて、仰向けに寝そべった。
かすかに、土の匂いと芝生の匂いがしてくる。
思いっきり伸びをして、深呼吸した。
「うーーーーん、気持ちいい~」
「コナ、鼻から吸ってしばらくお腹にためてから、口からゆっくり吐き出してごらん」
「腹式呼吸ってやつね?」
「そうとも言うけど、これはハワイ式の呼吸方で【ハヌ】っていうんだ。俺の言う通りに呼吸してみて、吸ってー、吐いてーーーーーーー」
(以外と難しかった)
「今度は吸ってお腹に貯めたら、自分の吐き出したいものを思って、それを全部吐き出してみて、せーの!」
(んと、私は日本人だからって、ウジウジ考えてた、ひねくれた考え!)
「フーーーーーーーーッ」
(吐き出した!)
「何を吐き出したの?」
「秘密!」
「なんだよー!教えろよ」
カイの長い足が、私の腿を蹴った。
すると、顔に冷たいものが、落ちてきた。
雨だ!
ポツ、ポツ....だんだんポツポツが、早くなってきた。
(まだ青空見えてるのに)
「コナ!こっち!」
カイが手を引き私を起こし、そのまま引っ張り走り出す。
大きな木の下に入った。
「急に降ってきてビックリ!」
「ハワイなんていつもこうさ、特に、ここはね」
「いつもカンカン照りのイメージあるけど」
「場所によっては違うのさ」
空を見上げながらカイが言った。
「コナは雨好き?」
「えー、嫌いかなぁ。だって子供の時、遠足中止になったり、ディズニーランドも雨降ったら台無しだし、洗濯物乾かないし」
「アハハハハ、コナは面白いね」
「なんでよー、みんなそうでしょ?」
カイが首を振った。
「俺は好き、たぶんここの人達もそうだと思う、雨はブレッシングって言って、全てを浄めて洗い流してくれる、木々や花を潤してくれる、そして雨があがると虹が出る、素敵な贈り物なんだよ、雨は」
(そんなこと今まで生きてて、思ったことなかった...)
「素敵!すごく素敵!あたしもこれから、そう思うことにする!」
「ハワイで虹を見ると、再び訪れる事が出来るって、言われてるの知ってる?」
(ハワイ初めてなんだから、知るわけ無いじゃん)
「知らない、そうなの?言い伝えとか?」
「まぁ、そうだね」
「あたし虹見たい!見る!絶対見る!」
「コナ、子供みたいだね、見れるよ、必ず!」
「だって、また来たいもん!」
「ハワイ好き?」
「うん!大好き!もっと色んなこと知りたいし、フラも踊ってみたいし、色んな場所にも行ってみたいから!」
私の本心だった。
「ハワイの歴史やフラの歴史は、奥が深いんだよ、日本の歴史や歌舞伎の歴史と同じようにね、神話もたくさんあるんだよ」
思わずカイの腕を掴み、言った。
「ねぇ!あたし知りたい!沢山それ知りたい!カイが知ってること、見てきたこと、全部同じだけ知りたい!」
(どうしたんだ?あたし)
「教えてあげるよ、コナ、ゆっくり教えてあげるから」
カイが、掴んでいた私の手を取り、肩を引き寄せた。
「カイ、私、ハワイもフラも好きになった、そして、あなたのことも...」
カイは微笑んだ。
「俺も好きだよ、ずっと前から」
(えっ?前から?)
カイの顔が近づいてきた...
(えー!えー!くる!)
私は目を閉じた。
カイの鼻が、私の鼻にチョンとくっついた。
(あ、これって....)
そのあと、おでこにキスをし、抱きしめてくれた。
なんだか、自分がハワイアンになれたような気持ちになった。
カイのTシャツは、私の涙で濡れていた。
「コナ!見て!」
いつの間にか、雨はやんでいた
「え?.....うわぁー!」
2人の目の前には大きな虹がかかっていた。
「カイ、あたし、またここに来れるんだね」
「そうだよ、ハワイは、分け隔てなく誰でも迎え入れてくれるんだ」
「うん...」
カイの抱きしめる力が強くなり、その心地よさに、私は身を委ねた。
虹はいっそう色濃くなっていった....
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