第6章~涙~

1/1
前へ
/23ページ
次へ

第6章~涙~

散歩からの帰り道、いつの間にか、恋人繋ぎになっていた。 (嘘から出たまこと?そんなことはいいか、素直な気持ちだもん!) ふとカイの顔を見上げる。 (私の恋人なんだ、カイ...) 「ん?なんだよ、人の顔まじまじと見て」 (見たって減るもんじゃないでしょ?) 「なーんでもなーい」 「このやろー」 カイが、くすぐってきた。 すると、遠くの方から声が聞こえた。 「カイ!カーイ!」 女性の声だった。 向こうから走って、手を振ってきた。 スタイルが良くて髪が長くて、モデルさんみたいな綺麗な人だった。 「カイ!久しぶり~!」 カイに、飛びついてハグして頬にキス。 しやがった! 「マヘアラニ!元気だったか?」 「あなたが、戻ってくるの待ってたのよ!」 英語で喋ってた。 私は蚊帳の外だった。 綺麗な人が、私をチラッと見た。 (日本のカイの取り巻きちゃん達みたいな目だ) 「ハ、ハロー」 発音の悪い英語で、挨拶した。 「ハロー、はじめまして」 英語で返してきた。 カイが、すかさず私を紹介してくれた。 「紹介するね、俺の恋人のコナ、日本人なんだ、英語は喋れないんだよ」 すると、綺麗な人は、機関銃のように喋り始めた。 何を言ってるのかさっぱりわからない。 でも彼女の顔が、少し怒っているように見えた。 (どうしたんだろう?この人) 喋るだけ喋って、綺麗な人は「シーユートゥモロー、バーイ」と言って、去っていった。 それは、聞き取れた。 「あの人、何言ってたの?」 「コナは気にしなくていいんだよ、俺の問題だから」 (あー、まただ、カイのもったいぶって言わない作戦) 「だって怒ってたよ?」 「コナに怒ってたわけじゃないから大丈夫、気にすんな」 (そういわれても気になるのが、女の性なのよね、マヘ何とかって、言ってたな、あとでプアに聞いてみよう) 「さっ帰ろう、パパのとこに行かなきゃ」 「あ、うん」 気になりながらも、次のミッションに、頭を切り替えた。 走らせること約20分、車はワイキキを通りすぎて、病院に向かっていた。 (あー、憧れのワイキキが遠ざかって行く) そんな私の気持ちを察してか、カイが言ってきた。 「コナ、明日の夕方、ワイキキに行こう、素敵なものが見れるから」 「えー!まじ?行きたい!見たい!」 (やった!何着ていこうかなぁ) ルンルン気分の私に、カイが、夢の世界から目を覚ますような事を言った。 「コナ、パパは君に会って、何を言うかわからないけど、安心して、大丈夫だから、俺がついてるから」 (今までカイの大丈夫は、あんまり、あてにならなかったけど) 「うん、わかった、大和撫子!大丈夫でござるよん」 「アハハハハ!コナ、ほんとおもしろい」 車は、病院のパーキングへと入っていった。 そこには、カイのママがいた。 太陽のような笑顔で、立っている。 カイと話し始めた。 カイが、手招きをした。 「行くよ、病室へ」 ドキドキしてきた。 (パパはどんな人なんだろう、あの写真のように、筋肉モリモリの強そうな人なのかな?) エレベーターで3階へとあがっていき、病室の前まで来た。 「コナ、ここで待ってて」 カイとママが先に入っていった。 数分してカイが戻ってきた。 「今、パパは、少しいい状態だから、中に入って」 (緊張が最高潮に達してて、歩き方が変だ、私) はっと目を疑った。 ベッドに横たわっているのは、あの写真のような筋肉モリモリの男性ではなく、痩せた初老の男性だった。 (え...パパ、カイのパパ?) ショックだった。 「パパ、恋人のコナミだよ」 「.......」 「アロハ、パパ」 「.....」 何も言ってくれなかった。 (パパを安心させて、元気づけるために来たのに、全然嬉しそうじゃないじゃん) ママが、英語でパパに何か言ってる。 首を横に振った。 そして、カイに言った。 「お前は、その子と結婚するのか?そのつもりなのか?ノヘアは、どうした?あの子とは、どうなってるんだ!日本とハワイとで、やり取りしていたんじゃないのか?」 (パパ、怒ってるよ...なんか) 「パパ、ノヘアとは、うまくいかなかったんだよ。遠距離では、無理だったんだ。日本に行ってすぐに、別れたんだ」 「会っていないのに別れたなんて、そんなことがあるか!戻ってきて、ノヘアに会ったのか?」 「いや、会ってない、ノヘアには..」 「今すぐ会ってこい!!」 「パパ、会っても何も変わらないよ、俺は、コナミが好きなんだ」 パパが、コナミを見た。 (!!!私を見た!) 「コナミサンアナタハカイノコトガスキデスカ?」 たどたどしい日本語だったけど、理解できた。 「はい、大好きです」 「ハワイニスムノハデキマスカ?」 (え?住む?) 考えてもみなかった。 「今は、わかりません」 「パパ、今急に、そんなこと言ったって、コナが困るだけだよ。俺は、パパの後をちゃんと受け継ぐから、そして、ちゃんとコナミにプロポーズするつもりだ」 (今、プロポーズって英語言った?) 「ノヘアは、アラカイ(弟子)として、レフアと一緒にハーラウ(フラの学校)を支えてきてくれた人だ、本来なら、お前は、ノヘアと一緒になるはずだった、私もそれを望んでいた、日本に行くことを許したのも、それがあったからだ!なのに、お前は....うぅぅ..」 パパは、苦しそうに喋っていた。 そして、涙を浮かべていた。 ママもパパの肩をさすりながら、涙を流していた。 (私、疫病神?パパとママを、悲しませるために来たの?) 「カイ、私、外で待ってるから」 カイの返事を待たずに、病室を後にした。 病院の中庭は、ハワイらしい感じで南国の花が、沢山咲いていた。 (日本とはやっぱり違うな..) (私がいなくて、今頃、店長てんてこまいだろうな......マユなにしてんだろ、あたしがいなくて、つまらないって昨日LINEきてたな......) ハワイにいるのに、気持ちが日本へ行っていた。 ふと空を見上げると、真っ青な青空が、私を見ていた。 「大丈夫?」って言ってくれてるぐらい、優しい青い空だった.... 涙が、止めどなく流れてきた。 止めようとしても止まらない、嗚咽に近かった。 (私が、来たからだ.....カイが、言ってたことは、この事だったんだ) 「全然大丈夫じゃないじゃんかぁ...ぁ...ぁ........もぉ...ぉ..」 泣きじゃくった、誰もいない、南国の花に囲まれた、中庭で。 思いっきり泣いた....
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加