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第6章~涙~
散歩からの帰り道、いつの間にか、恋人繋ぎになっていた。
(嘘から出たまこと?そんなことはいいか、素直な気持ちだもん!)
ふとカイの顔を見上げる。
(私の恋人なんだ、カイ...)
「ん?なんだよ、人の顔まじまじと見て」
(見たって減るもんじゃないでしょ?)
「なーんでもなーい」
「このやろー」
カイが、くすぐってきた。
すると、遠くの方から声が聞こえた。
「カイ!カーイ!」
女性の声だった。
向こうから走って、手を振ってきた。
スタイルが良くて髪が長くて、モデルさんみたいな綺麗な人だった。
「カイ!久しぶり~!」
カイに、飛びついてハグして頬にキス。
しやがった!
「マヘアラニ!元気だったか?」
「あなたが、戻ってくるの待ってたのよ!」
英語で喋ってた。
私は蚊帳の外だった。
綺麗な人が、私をチラッと見た。
(日本のカイの取り巻きちゃん達みたいな目だ)
「ハ、ハロー」
発音の悪い英語で、挨拶した。
「ハロー、はじめまして」
英語で返してきた。
カイが、すかさず私を紹介してくれた。
「紹介するね、俺の恋人のコナ、日本人なんだ、英語は喋れないんだよ」
すると、綺麗な人は、機関銃のように喋り始めた。
何を言ってるのかさっぱりわからない。
でも彼女の顔が、少し怒っているように見えた。
(どうしたんだろう?この人)
喋るだけ喋って、綺麗な人は「シーユートゥモロー、バーイ」と言って、去っていった。
それは、聞き取れた。
「あの人、何言ってたの?」
「コナは気にしなくていいんだよ、俺の問題だから」
(あー、まただ、カイのもったいぶって言わない作戦)
「だって怒ってたよ?」
「コナに怒ってたわけじゃないから大丈夫、気にすんな」
(そういわれても気になるのが、女の性なのよね、マヘ何とかって、言ってたな、あとでプアに聞いてみよう)
「さっ帰ろう、パパのとこに行かなきゃ」
「あ、うん」
気になりながらも、次のミッションに、頭を切り替えた。
走らせること約20分、車はワイキキを通りすぎて、病院に向かっていた。
(あー、憧れのワイキキが遠ざかって行く)
そんな私の気持ちを察してか、カイが言ってきた。
「コナ、明日の夕方、ワイキキに行こう、素敵なものが見れるから」
「えー!まじ?行きたい!見たい!」
(やった!何着ていこうかなぁ)
ルンルン気分の私に、カイが、夢の世界から目を覚ますような事を言った。
「コナ、パパは君に会って、何を言うかわからないけど、安心して、大丈夫だから、俺がついてるから」
(今までカイの大丈夫は、あんまり、あてにならなかったけど)
「うん、わかった、大和撫子!大丈夫でござるよん」
「アハハハハ!コナ、ほんとおもしろい」
車は、病院のパーキングへと入っていった。
そこには、カイのママがいた。
太陽のような笑顔で、立っている。
カイと話し始めた。
カイが、手招きをした。
「行くよ、病室へ」
ドキドキしてきた。
(パパはどんな人なんだろう、あの写真のように、筋肉モリモリの強そうな人なのかな?)
エレベーターで3階へとあがっていき、病室の前まで来た。
「コナ、ここで待ってて」
カイとママが先に入っていった。
数分してカイが戻ってきた。
「今、パパは、少しいい状態だから、中に入って」
(緊張が最高潮に達してて、歩き方が変だ、私)
はっと目を疑った。
ベッドに横たわっているのは、あの写真のような筋肉モリモリの男性ではなく、痩せた初老の男性だった。
(え...パパ、カイのパパ?)
ショックだった。
「パパ、恋人のコナミだよ」
「.......」
「アロハ、パパ」
「.....」
何も言ってくれなかった。
(パパを安心させて、元気づけるために来たのに、全然嬉しそうじゃないじゃん)
ママが、英語でパパに何か言ってる。
首を横に振った。
そして、カイに言った。
「お前は、その子と結婚するのか?そのつもりなのか?ノヘアは、どうした?あの子とは、どうなってるんだ!日本とハワイとで、やり取りしていたんじゃないのか?」
(パパ、怒ってるよ...なんか)
「パパ、ノヘアとは、うまくいかなかったんだよ。遠距離では、無理だったんだ。日本に行ってすぐに、別れたんだ」
「会っていないのに別れたなんて、そんなことがあるか!戻ってきて、ノヘアに会ったのか?」
「いや、会ってない、ノヘアには..」
「今すぐ会ってこい!!」
「パパ、会っても何も変わらないよ、俺は、コナミが好きなんだ」
パパが、コナミを見た。
(!!!私を見た!)
「コナミサンアナタハカイノコトガスキデスカ?」
たどたどしい日本語だったけど、理解できた。
「はい、大好きです」
「ハワイニスムノハデキマスカ?」
(え?住む?)
考えてもみなかった。
「今は、わかりません」
「パパ、今急に、そんなこと言ったって、コナが困るだけだよ。俺は、パパの後をちゃんと受け継ぐから、そして、ちゃんとコナミにプロポーズするつもりだ」
(今、プロポーズって英語言った?)
「ノヘアは、アラカイ(弟子)として、レフアと一緒にハーラウ(フラの学校)を支えてきてくれた人だ、本来なら、お前は、ノヘアと一緒になるはずだった、私もそれを望んでいた、日本に行くことを許したのも、それがあったからだ!なのに、お前は....うぅぅ..」
パパは、苦しそうに喋っていた。
そして、涙を浮かべていた。
ママもパパの肩をさすりながら、涙を流していた。
(私、疫病神?パパとママを、悲しませるために来たの?)
「カイ、私、外で待ってるから」
カイの返事を待たずに、病室を後にした。
病院の中庭は、ハワイらしい感じで南国の花が、沢山咲いていた。
(日本とはやっぱり違うな..)
(私がいなくて、今頃、店長てんてこまいだろうな......マユなにしてんだろ、あたしがいなくて、つまらないって昨日LINEきてたな......)
ハワイにいるのに、気持ちが日本へ行っていた。
ふと空を見上げると、真っ青な青空が、私を見ていた。
「大丈夫?」って言ってくれてるぐらい、優しい青い空だった....
涙が、止めどなく流れてきた。
止めようとしても止まらない、嗚咽に近かった。
(私が、来たからだ.....カイが、言ってたことは、この事だったんだ)
「全然大丈夫じゃないじゃんかぁ...ぁ...ぁ........もぉ...ぉ..」
泣きじゃくった、誰もいない、南国の花に囲まれた、中庭で。
思いっきり泣いた....
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