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第8章~浄化~
何事もなかったかのような、楽しいディナータイムだった。
(お昼食べなかったから、めちゃ食べちゃったわ)
ソファー横たわり、食後のリラックス。
とそこに、私の顔を覗き込んでくるカイ。
「食べてすぐ横になると、太るぞ」
「いいもーん」
「明日は早起きだから、早くベッドに行きなよ」
(そうだ、明日の朝は身を清めるんだった!)
「うん、わかった、寝る~」
「おやすみ、コナ」
おでこにキス。
当たり前になってきて、ドキドキしなくなってきた。
「おやすみ、カイ」
やはり、ジェットラグ気味なのは、まだらしくて、今日も、スマホの目覚ましに頼らないで起きられた。
(いつも朝必ず、シャワー浴びるけど、今日は海に入るから、このまんまでいいや)
喉が渇いてたので、キッチンへ行き、冷蔵庫を開ける。
すると、後ろから....
「おはよう、早いね、コナ」
カイだった。
「おはよう!まだジェットラグらしいわ」
クスッとカイが笑う。
グァバジュースをグラスに注ぎ、一気飲みした。
(うー!ビールよりうんまいっ!)
「コナ、飲んだら行こうか」
「あ、うん」
スマホのライトをつけて、浜辺への階段を降りていく。
まだ真っ暗だ。
「気をつけて」
と手を差し出した、カイの手は温かかった。
少し肌寒かったけど、カイの手から温もりをもらった。
「まだ早いから、座ろう」
「うん」
そう言って私を、カイが座った足の間に、座らせてくれた。
何も喋らず、ただ暗い海を眺めていた。
カイは毛布のように、私をくるんでくれた。
(背中、暖かい....)
「【ハヌ】しよう、二人で呼吸合わせて」
目を閉じて【ハヌ】した。
カイと呼吸を合わせ、1つになった。
(この世に、私達2人だけみたい...)
「よしっ!立って!」
(おっと!ビックリした~)
「そろそろなの?」
「うん、そろそろだよ」
波打ち際まで行き、カイは言った。
「コナ、目を閉じて聞いていてね」
そこで、カイは何度か【ハヌ】した。
カイの声じゃない別の声で、何かを言い始めた。
(どこから声出してるんだろう?)
今まで感じたことのないような不思議な気持ちだった。
太陽が昇り始めたのがわかった、目を閉じていてもそれはわかった。
カイが、私の手を握り、海へと導く。
腰まで浸かっていたけど、冷たくなかった。
呪文のような、お経のようなものが終わった頃、太陽は地平線から顔を出していた。
(海がキラキラしてる!綺麗!)
「コナ、さあ、頭まで浸かるよ」
「わかった!」
手を繋いだまま、海の中へ。
目を開けてみた。
そこは、この世のものとは思えないほど輝いた世界。
本当に、体も心も浄化された感じだった。
地球と1つになった感覚だった。
「コナ、寒くない?」
プールサイドに用意されたタオルで、体を拭いている私に、カイが言った。
「うん、大丈夫」
「どうだった?」
さっき感じた気持ちを話した。
「うん、それでいい、それだよ。浄化してもらったね」
カイが、神様みたいに見えた。
「マハロ ヌイ ロア!」
「おっ!ハワイ語!」
「エヘヘ~、プアに【ヌイロア】をつけると、ありがとうございます、だってこと、教えてもらったの」
「俺が、もっと教えてあげるよ」
「よろしくお願いしますっ、先生」
「ちなみに、先生は【クム】って言うんだよ」
「クム、マハロ ヌイ ロア!」
「コナミくん、それは【マハロ ヌイ ロア エ クム】って言うんですよ、わかりましたか?」
「はぁ~い!わかりましたっ!」
2人で笑い合う姿を、リビングからママとプアが、微笑みながら見ていた。
「さあ、2人ともシャワー浴びて着替えてらっしゃい、朝御飯よ」
カイが、訳してくれた。
(英語も話せるようになりたいな~)
「そうよー、早く食べて、花摘みに行くわよー!コナ!」
プアは、日本語だった。
(ありがたや~日本語聞くとホッとするわ)
普通の家族の朝の風景がそこにあった。
「ねぇ、プア、この葉っぱは、何?」
種みたいなブツブツが付いてる葉っぱが、沢山生えていた。
「ラウアエよ、女神ラカの化身とも、言われてるの」
(神様?日本で言ったら、七福神みたいな感じかな?)
「女神ラカは、【フラの女神】とも言われてるの、沢山の神話があるのよ」
(カイが言ってたなー)
「お兄ちゃんが教えてくれるよ、きっと私よりも、お兄ちゃんに教えてもらった方がいいよ」
「うん」
「さあっ!口動かしてないで、摘んでー」
「あ、はいはーい」
プールサイドは、沢山の花や葉で、まるで花屋さんを始めるみたいだった。
「コナ、編み始めるから見てて」と言いながら、プアは、ササッと編み始めた。
(魔法使いみたい!)
色とりどりの花と葉っぱが1つになって、プアの手から、花と葉の道が伸びていくようだった。
「すごいー!プア!」
「さ、生徒さん、これと同じものを作ってみて」
(無理だろー、絶対無理だろー!)
「無理だよ~」
「完璧に出来なくていいからやってみて、コナの思うままに」
(んー、じゃ、やってみっか)
1時間半後、それは出来上がった。
クネクネした長くて大きな芋虫みたいな物体。
(なんだこりゃー!ブアのと全然違うじゃん)
「まぁ、こんなもんね」と、プアが笑った。
(だから言ったじゃん、無理だって)
でも、なんとなく、太くて長い芋虫が、愛おしく思えた。
「でもさ、久しぶりに集中したよ、何も考えずに集中した!」
「そう、それよ、コナ」
「レイを編むときは、摘んだ花や葉に感謝して、この子達だけに集中するの、会話するのよ、この子達に」
カイと同様、プアも神様に見えた。
「ハワイって凄い、ほんとに凄い!」
「ウフフ、でしょ?」
ランチタイムをとり、全てのレイが編みあがった。
時計は、既に15時をまわっていた。
「じゃ、あたし、先に行ってるね、後でね」
プアはそう言うと、レイを持ってワイキキに
向かっていった。
レフアの所に行っていたカイが、戻ってきた。
「コナ、そろそろ行くけど、準備出来てる?」
「うん!オッケーよ」
「それ、コナが編んだの?」
カイが、今にも吹き出しそうに言った。
「あー!笑った!笑ったでしょ?」
「いやいや...初めてにしては...上手に...編めてる...よ」
(笑いこらえてる!)
「いいの~!この子は、私が初めて編んだ、可愛いレイちゃんなのー」
「そうだね、素敵だよ、コナ」
太くて長いウネウネした芋虫ちゃんは、白いワンピースを着た私の首に、かかっていたのだ。
「さぁ、行くよ、ワイキキに」
「はぁ~い!」
夢に見た憧れのワイキキ、ウキウキワクワクだった、その時までは。
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