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開く蕾 ①
―― 『お父さん』 が帰ってきたんだな。
わたしはシャワーを浴びながら、そう思った。
美沙の父親は普段は酒を飲まない人だが、送別会だから多少は飲んできたのかもしれない。
酔っぱらい特有のどすどすとした足音がシャワーの音を超えて聞こえてきて、わたしは自然に身をすくめていた。
―― 以前に母が酒臭い息を吐きながら、窒息しそうになるまで抱きしめてきた直前も、こんな足音を立てていたのだ。
今回は違う。洗面所はお風呂場のすぐ隣だから、美沙の父が外出後にこちらに向かうのは当然のことだ…… と自分に言い聞かせても、嫌な感じは治まらない。
わたしはシャワーを止め、そっとお風呂につかった。
扉の外から聞こえるのは、ジャーッと蛇口から水が流れ出る音。
バシャバシャと手や顔を洗う音。
ガラガラと乱暴なうがいの音。
息を潜め、早く行って、と念じる。
水音は静かになったけど…… まだ、そこに、居る。
がつん、と洗濯機にぶつかる音が、大きく響き……
そして、お風呂場の戸が、ガタン、とすごい勢いで開けられた。
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