開く蕾 ②

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開く蕾 ②

 美沙のお父さんは、裸だった。  少し出た腹、その下で、別の生き物みたいに赤黒く膨れ上がっているもの。  驚いたわけではない。  わたしには、そういう感情が欠落きているのだから。  ―― 酔っ払っているのだ。さっと出て、そばをすり抜けて部屋まで逃げれば、大丈夫。  冷静にそう考えているはずなのに、足に力が入らなかった。身体が勝手にガクガクと震え出すのを、わたしは不思議なものでも見るように、眺めた。 「なんだぁ、カズミぃ…… そこに、いたのかぁ……」  呂律の回っていない、口調。  『カズミ』 は確か、美沙の母親の名だった。浮気して男と逃げた、そう聞いたことがある。  わたしは、手足にぐっと力を込めて、震えを止めた。 「ごめん、すぐ出るよ、『お父さん』 」  風呂から上がり、ふらついて酒のニオイがする身体の横を、急いですりぬける…… ことは、できなかった。  腕が、すごい力でグイッと引っ張られた。  そのまま、風呂の中に放り込まれ、上からのしかかられる。 「まぁそう、急ぐなよぉ…… 夫婦だろぉ。何年ぶりだぁ? 一緒に風呂に入るのはぁ?」  
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