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白い蕾 ①
『私』 という者をイメージする時、わたしはいつも、白い花の蕾の中にいるちっぽけな虫を思う。
安全で何も起こらず、何も無い、白い世界。
そこには喜びも情熱も、怒りも悲しみも存在しない。
永遠に開かない、静かで冷たい蕾の中で、ただ死ぬまで息をしているだけの、小さな小さなダニのような生き物―― それが、わたしだ。
それはたとえ、18歳の誕生日を迎えたところで変わらなかった。
「それ、新しいの?」
「そう。昨日、誕生日だったから、母から貰ったの」
「へえ…… いいね」
高校の卒業式も間近な、3月のある日。
とっくの昔に自由登校になり去年の半分程度しか人のいないクラスで、神田美沙に声を掛けられて、わたしは頭に手をやった。
ハーフアップにした髪をまとめているのは、デイジーの花がモチーフの少女趣味なバレッタ。
「優雨ちゃんが選んだの?」
わたしは、首を横に振った。
「貰ったから、つけてるだけ」
「いいなぁ。だいじにされてるよね、優ちゃん」
「そうかな」
「そうだよ。羨ましいくらい」
「そっか」
わたしは曖昧に笑った。
周囲からのそういう目には、慣れている。
けれど、わたしはいつも、それにどう答えれば良いのか、分からない。
「ね、18歳だね、優ちゃんも」
「そうだね」
だから何だというのだろう、とは、口には出さない。
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