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プロローグ~『私』の境界~
21世紀末、人工脳がスペア臓器として培養されるようになると、もはや身体の部位で取り替えの効かないものは存在しなくなり、人類の寿命は飛躍的に伸びた。
しかしそれは、身体を基盤とした自己同一性の在り方を混乱させることでもあった。
人は新しい自己同一性の基盤を 『魂』 に求め、 『魂』 の科学的研究を進めた……
その結果、特殊な器具を使用して 『肉体と魂を結ぶ糸』 を切断し、かつ再接続する技術が発達した。
最初のうち、それは禁忌視されていたが、誰しも 『違う自分になってみたい』 という欲求を持っているのだろう。秘密裏に魂を交換する人は後を絶たず、それに追い付く形で法整備が進められた。
現代では、18歳以上の責任能力を持つ者は本人の同意により、魂を交換することが可能である。
魂を交換した場合、個人の精神的な自己同一性は魂によるが、社会的な自己同一性は身体による。
…… つまり、たとえばAとBが魂を交換した場合は、社会的にはAはBとして、BはAとして生活を送り、それに伴う一切の責務を負うことが、法律的に定められているのだ。
―― 18歳になった、翌日。わたしは、「魂、交換しない?」 と持ちかけられた。
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