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紗栄子は喜んでくれるならと思うが──藤井紗栄子の両親にも、遠回しにでも幸せになったと、なんとか伝えられないものかと思ってしまう。縁もゆかりもないが子供ができたら会ってもらうことはできないか、いつか紗栄子の墓参りと称して行けたら──。
「──え……っ?」
ダイニングテーブルでパソコンをいじっていた真治が声を上げる。
会社が用意しくれてくれたアパートは、真治が持つ横浜駅のマンションよりも狭い。だが夫婦ふたりで暮らすにはもちろん十分な広さだ。むしろ手の届くような距離が紗栄子には心地よかった。
「ん? どうしたの?」
異常事態を感じて声をかけていた。
「嘘だろ……」
言いながらマウスを操作していた、そして聞こえる、パソコンからの音声。
『はーい、今日も始まります、ソランのソラソラチャンネルー!』
子供の声が聞こえてきた、そら、という言葉に紗栄子も反応する。ダイニングに行ってその画面を覗き込んだ。
自分の部屋だろうか、ピンクが基調のファブリックが背景を埋め尽くしているその場所で、ツインテールの少女が笑顔で手を振っていた。
「──マジか」
真治が絶句した、紗栄子も驚く。
中山彩香──空羅は、健康的なはつらつとした笑顔を見せている。横浜のマンションで見かけたやせ細り、虚ろだった気配は微塵もなかった。
「ソラン、って」
その名も空羅から来ているのだと判るのは、自分たちだけだ。
真治はその動画を消そうとしたが、それを紗栄子は止めた。
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