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真治を頼り、ここまでやってきた空羅を放り出すつもりはない。だが紗栄子もここを追い出されたらどこへ行く当てなどないのだ、はい、わかりましたと出て行くことはできなかった。
空羅は構わず中へ進む、見覚えのあるリビングやダイニングにほっとした、新しい女が来ても模様替えがなかったことに安堵する。ここはまだ自分の居場所なのだと思えた。
だがキッチンを見て顔が歪む、香ばしい匂いが空腹を刺激する。筑前煮の醤油とホイル焼きのバターの香りが、この家の幸せを示しているようで腹が立った。顔はよく似ているのに、中身は全く違うらしい──きっと満たされた家族の元に育ち、今も真治の愛を一身に受けているであろう女に邪魔などされたくない。
「あの、真治くんも交えて、ちょっとお話をしない?」
紗栄子はそっと提案した。
「必要ない。あなたの顔なんか見たくない、早く出て行って」
「そんなこと言わないで。あなたの顔じゃない」
紗栄子の言葉に振り返っていた、確かによく見れば、瓜二つどころではない、自分そのものではないか。
「──どういう……」
言いかけて止まった、自分の身の上に起きたことは何とか理解している、2年も寝たきりだった少女の体に乗り移ってしまったのだ、では自分の元の体は──別の人間が、乗っ取っている──!
「──あなた、誰?」
低い低い声が出た。
「私は……」
「ううん、どうでもいいや、その体、返してよ!」
掴みかかっていた、元の空羅も小柄だったが、今の体は小学4年生でさらに小さい、それでも髪を掴み無理矢理に引っ張った。
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