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「真治くんの言う通り、とてもいいご両親なの」
空羅は真治を抱きしめたまま、笑顔で見上げて話をする。
リハビリは3週間を要した、それを終えて退院したのはつい先日だ。病院という檻から出られた空羅は真治に会いたい衝動が抑えきれない。
事故で何年も眠っていたせいだろう、かなり甘い親になってようだ。ちょっと買いたいものがあると嘘を言い、じゃあ一緒に行こうという両親にあれやこれやと言い訳をして数万円の現金をもらった。世間知らずだが新幹線で横浜まで行ける知識くらいはあった。
「真治くん……会いたかった……」
もう帰らない、そう伝えようとした時、紗栄子が激しく咳き込む。その瞬間、真治は空羅の両肩を掴み離すと脇に退け、大股で紗栄子の元へ歩み寄った。
「……真治、くん……?」
真治は紗栄子の傍らに膝をつくと、抱きしめ介抱を始める。
「大丈夫か?」
大丈夫と答える声すら咳にしかならない。
「紗栄……」
心配し紗栄子に顔を寄せる姿に、空羅はどうしようもない嫉妬と焦燥感が生まれる。
せっかくここまで来たのに、自分の居場所はとうに奪われていたのだ。なんとかして、その居場所を取り戻したい──。
「いなく、なればいい……」
母に愛されなかった自分など、この世に要らない。
整形を繰り返したのは、生きるためではあった。少しでも多くのお金をもらうために男ウケする顔や体に変えていった。
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