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視線を落とした、真治の体の側面、肋骨に守られた場所に、包丁が根元まで突き刺さっている。
紗栄子は息を呑むと同時に、悲鳴を上げる。
「空羅はあたしだよ!」
空羅の泣き声が響く。
「ごめん、空羅、判ってる。それでも俺が守りたいのはこいつなんだ」
そっと髪を撫でられた紗栄子は、救急車、救急車とつぶやきながら立ち上がった、この家に固定電話はなく発信はスマートフォンからになる。それはキッチンカウンターに置かれていた。
紗栄子を支えにしていた真治は、大きなため息を吐きながらゆっくりと倒れる、そのまま倒れれば包丁がある側を下にしてしまいそうで、反対の右側を下にする余裕はあった。
脂汗をかき、青ざめた真治を空羅は見下ろす。
「……真治くん……死ぬの……?」
問われ、真治はただ微笑んだ。死ぬかどうかはわからないが、痛みはどんどん強くなり、広がっていく。
「痛いよね……空羅、知ってる……」
体に何度も刃を当てた、皮膚を切るだけでも痛いのに、深々と刺し抜かれたらどれほどの痛みなのか。
「……空羅も、死ぬ……一緒に死の……」
真治を貫いたもので自分の腹も裂けばいい、包丁に手を伸ばしたが、真治がその手を止めた。とても強い力に空羅は驚く。
「生きろって言っただろ……新しい人生を手に入れたんだ、やり直せって……そうそうできることじゃないはずだ、とりあえず俺は今まで聞いたことがないからな……ここまで来る行動力があるお前ならできるよ……今までの辛かった人生は全部リセットできたんだ……どうか、幸せに……」
「真治くんがいないんじゃ、幸せなんかになれないの」
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