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紗栄子は受話口に向かって叫んでいた。
「早く来て、お願い、早く! 真治くんが死んじゃう!」
落ち着いてください、という男性の声にいら立ちが募る。とにかく早く来てくれればいいのにと思った。
住所はと言われ、大井町の住所を言いかけて真治にも落ち着けと言われた。
どうしましたと言われ、包丁が刺さってとしか言えなかった。
『既に救急車が向かっています。包丁が刺さったままでしたら、そのままにしておいてください』
「痛そうなのに!」
『抜くときに傷が広がる場合があります、包丁で傷が塞がり出血が抑えられている場合も』
言われ泣きじゃくりながらうなずいた。
「紗栄」
手招きで呼ばれ、電話を切った紗栄子は真治の傍らに膝をつく。
「悪ぃんだけど……どうしてこうなったのか……言い訳、考えないと……」
紗栄子はうなずいた、空羅の犯行にはしたくないのだとわかる。紗栄子自身も空羅のせいにするのは違うと思った。
「私にやったことにしよう!」
真治は弱々しく微笑む。
「俺が挑発したってするか……喧嘩が発展したってことでいっか……喧嘩の原因は……まあ、些細なことで、くらい?……理由なんか忘れたでいいか……」
紗栄子は大きくうなずく、現に一緒に住んでいればそんな喧嘩は勃発することもあるだろう。
「ごめんな」
その謝罪の意味を、紗栄子はすぐに判じる。空羅の罪を負うことだ。
「そんなの全然いいよ! 私は空羅ちゃんみたいなものなんだし!」
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