【異国の空の下で】

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縁もゆかりもない横浜での事故に、当然中山彩香の両親は驚いた。 ようやく目覚めた娘が、また病院のベッドに──嘆き悲しむ両親を見て、空羅はさすがにやりすぎたと反省し、新しい人生を手に入れたことを改めて実感した。 何故横浜にとは2度聞かれたが、どこかへ行きたかっただけ、とだけ答えた。 土地勘もはずのオートロックのマンションから飛び降りたらしいことも追及されたが、それすら空羅はわからないと答え逃げれば、両親はしかたなく納得してくれた。 空羅も、その後の真治がどうしたかなど知る由がなかった。 死んでしまったのか──ならば自分が殺めたと、どこか達成感があるのが怖かった。 助かったのなら空羅の肉体と幸せに暮らしているのか──それには強烈な嫉妬に蝕まれるが、真治が空羅の肉体を選んだならばそれはそれで満たされた。 大金をかけて自分が理想とする体を手に入れた、それが真治の好みと合ったならばと喜びがある。 飛び降り自殺で全身数か所に骨折をしていた、横浜の病院で2週間の治療を受けた後、神戸に転院する。完治には二か月を要した。 退院後は親による行動制限が多かった。当然だろうと思う、大金を借り横浜まで旅に出た挙句自殺未遂をしたのだ、常に親の視界に入っている感覚だ。 学校への送迎の欠かさず行われる、それを面倒だと言わない両親なのがありがたかった。車での行き帰りに楽しそうに話をしてくれることで、空羅の心は癒される。 化粧をしたいと言えば、最初は眉をひそめたものの、一緒に買いに行ってもくれた。化粧は空羅にしてみれば衣服と同じだ、どうしてもやりたいことのひとつだった。 それを親も上手だと褒め、友人たちにもやりかたを教えてくれと言われる。 元は水商売で得た知識だったが、そんなものでも皆に注目されれば嬉しいものだった。
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