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そんな風に怒る仕草すら真治が知る空羅ではない、喜怒哀楽の表すのは苦手なようだった。
「……二重人格?」
空羅のように抑圧されて生きてきた人間ならば、聞かなくもない話だが。
「そうじゃない、私は完全に違う人間! こんな顔でも、スタイルでもなかった!」
「生まれ変わりたいとか思ってたとか?」
これが空羅が理想とする女性像なのだろうかと聞いてみた。だが無理はしなくていいと思うが。
「生まれ──変わりたい」
紗栄子は腕を組んで考え込んだ、転生などと呼ばれる現象かと思った。そんなことを考えたことはないが、もし、そうだとしたら──。
「え、そんな──今って、何年!?」
「2022年」
「え、じゃあ、生まれ変わってはいないわ」
紗栄子自身、2021年を過ごした記憶はきちんとある。
「年は明けたのか……! 何月何日?」
「1月30日」
「──1月!」
記憶とはひと月ずれている、間違いない、あの日はクリスマスだった。会社から帰ってきて化粧も落とさずベッドに横たわった、それが最後の記憶だ、ロールケーキを冷蔵庫にしまわなくては思っていた──突然目まぐるしく脳内の駆け巡る思考を、なんとかまとめようとこめかみを指で叩く。
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