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来月に入ればこの忙しさは去っているな、と内心嘆息しながらも明るい声で返事をする。
それから少し怪我の治り具合について会話をした。今日は松葉杖の練習をしたのだと教えてくれた、ここ2週間ほどはそんな話題で電話をくれる、紗栄子を心配してくれているのか、あるい誰かと会話をしたいのだろう。
少しして遠くから消灯よ、と女性の声がした。
『はあい。ごめんね、忙しいのに、長話に付き合わせて』
とは言え10分ほどのことだ。病室での通話は禁止されている、談話室まで車いすで来ていた。
「いえ、こちらも気分転換になりました」
それは嘘ではない。
『根詰めないでね、無理はしないでね』
最後にねぎらいの言葉をかけて電話は切れた。紗栄子はため息をひとつ吐いて、電話をキーボードの脇に置き、伸びをしてからキーボードに手を置く。
「さて。あと少しやりますか」
幸い明日は土曜日、仕事は休みだ。少し遅くなっても構わないし、むしろキリのいいところまでは終わらせてしまいたかった。
またキーボードの音が響きだす。
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