【目を開けるとそこには】

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「助けられたのは判ったんだよな、懐かれて、学部も違ったからもっと会いたいってせがまれて──まもなくだったな、男の人をこんなに好きになったことないって告白された。正直言えば空羅は好みじゃなかった、顔じゃなくて中身がな。自分の意見も言えないようなタイプは苦手だ。でも手首の傷を見て、放っておけなくなったのが一番だ」 真治の声がトーンダウンする。 「こんな言い方は怒られるかもしれないけど、犬か猫を拾った感覚だな。拾った以上はきちんと面倒を見ないとって思ってた。いつか空羅が俺の元から去りたいと思えば、それも成長と思って受け入れるつもりではいたけど──まさか別人ですって言い出すとは思わなかったぞ」 それは半ば嫌味で言ったのだが、 「ああ──うん、なんかごめんね」 紗栄子は素直に謝っていた、体をのとってしまったことを。 まもなくJR線大井町駅の近くまできた、駅周辺からは紗栄子がナビをして目的のマンションに着いた。 古いマンションだ、オートロックなどなく、女性が住むにはちょっとと不動産屋には言われたが、その分家賃が安く、駅からも近ければ十分価値がある物件でここに決めたのだ。 エレベーターで5階へ、そこから三つ目の503号室が紗栄子が借りている部屋だ。
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