【目を開けるとそこには】

26/53
前へ
/198ページ
次へ
インターフォンを押し、しばし待ったが反応はない。何度も押した、数回鳴って静かになると再度押す、何度も繰り返したが物音すらなく、ドアノブに手をかけ引いたがしっかりと錠はかかっている。 「──留守なのかな」 「単に爆睡とか?」 「ありうる……起きて! いるかいないかくらい……!」 紗栄子は拳でドアを叩いた、数回繰り返すと 「──うちになんか用?」 男の声がした、エレベーター方面からだ、見れば細面の20代前半と思しき男が訝しんだ目で歩いてくる。 「はい、あの、こちらに住んでる藤井紗栄子さんに会いたくて……え、うち?」 男はポケットから鍵を出すと鍵穴に差し込んだ、回すと錠は軽快な音を立てて外れる。ダブルロックだが上のものだけを開けて紗栄子たちを見た、その目は、ここは間違いなく自分の部屋だと訴えている。 「──え?」 「──俺、事故物件専門のバイトしてんの」 戸惑う紗栄子に、男は抑揚もなく言った。
/198ページ

最初のコメントを投稿しよう!

484人が本棚に入れています
本棚に追加