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インターフォンを押し、しばし待ったが反応はない。何度も押した、数回鳴って静かになると再度押す、何度も繰り返したが物音すらなく、ドアノブに手をかけ引いたがしっかりと錠はかかっている。
「──留守なのかな」
「単に爆睡とか?」
「ありうる……起きて! いるかいないかくらい……!」
紗栄子は拳でドアを叩いた、数回繰り返すと
「──うちになんか用?」
男の声がした、エレベーター方面からだ、見れば細面の20代前半と思しき男が訝しんだ目で歩いてくる。
「はい、あの、こちらに住んでる藤井紗栄子さんに会いたくて……え、うち?」
男はポケットから鍵を出すと鍵穴に差し込んだ、回すと錠は軽快な音を立てて外れる。ダブルロックだが上のものだけを開けて紗栄子たちを見た、その目は、ここは間違いなく自分の部屋だと訴えている。
「──え?」
「──俺、事故物件専門のバイトしてんの」
戸惑う紗栄子に、男は抑揚もなく言った。
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