【目を開けるとそこには】

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事故物件──何らかの原因で死亡者が出た部屋のことだ。確かにそんな部屋に住むアルバイトがあると聞いたことがあった。本来次にその部屋に住まう者には人が亡くなったことを知らせなくてはいけないが、数日でも誰か住んだことがあるならばわざわざ伝えなくてもいい、そのためのバイトだ。 「ここの前の住人は先月亡くなってる。自殺や他殺ではなかったそうだが死因までは聞いてないし、住人の名前も知らない。金の取り立てとかなら、とりあえず不動産屋に行ったら?」 「取り立てなんかじゃ……」 紗栄子の言葉には耳も貸さずに、言いたいことは言ったとばかりに男は背を向けると、もうひとつの錠を外してさっさと中へ入る、そして音の響かせて錠をかけた。 「……そんな……」 「──空羅、いないのか」 ぽつりの呟いた言葉に、紗栄子は自分以上に悲しむ者がいることを悟る。 「……なんか……ごめん……こんなとこまで来てくれたのに」 言うと、途端に髪をくしゃりと撫でられた。 「謝ってばっかだな。これまでの事情から察するに、サエコさんも狙いすまして空羅になったわけじゃないんだろ、気にしなくていい」 優しい声と言葉に、紗栄子はうん、と応えていた。
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