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「さてと、まあどうするか? 彼の言う通り、とりあえず不動産屋に行って話を聞いてみるか? サエコさんの事、聞いた方が」
「ううん」
紗栄子は静かに頷いた。
「行くなら、実家に行く」
死んだと言うなら親にも連絡は行っているだろう、とりあえず行くならそこだと思えた。
「そうだな」
真治も納得した。
「よし、判った、送るよ」
「え、でも、近くないよ?」
「何処?」
「群馬の藤岡」
紗栄子が言うと、真治はにこりと微笑む。それまでとは違う、初めて見たと思える優しい笑みに、図らずも紗栄子の胸は僅かながらときめいてしまう。
「ちょっとしたドライブにはいい距離だ、乗り掛かった舟だし構わない」
「そんな」
紗栄子は思わず辞退したが、
「電車じゃそれなりの時間がかかる、車の方が早いぞ。それに現時点で君は一文無しだろう?」
「──う」
リビングにあったベビーピンクの小さな鞄が空羅のものだった。持って行かないかのかと真治には言われたが、当然紗栄子からしたら他人の持ち物だ、手に取ることすらしてない。手ぶらの紗栄子に、お金などあろうはずがない。
紗栄子はぺこりと頭を下げた。
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