【目を開けるとそこには】

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「よろしく──お願いします」 紗栄子の素直さに、真治はよしと頷き応える。 * 一路、群馬へ向かって走り出した車内で。 「でもどうする? このまま行って自分はサエコだと言うのか?」 真治はもっとな疑問を発する。 「あ、無理だよね、死んだ娘が帰ってきたって言っても」 外見が全く違うのだ、頭がおかしいか、詐欺かなにかと思って追い返されてしまうかもしれない。 「──確認は、君が本当に亡くなったかどうかだけ?」 「──うん……そうだね……」 認めたくはないが、その通りだ。さらに言えば親が心配だ、未婚の一人娘が死んだのだ、きっと憔悴しているに違いない。 「30歳って言ったっけ? じゃあ俺の姉の友達ってことにしよう。俺自身が友達で訃報を聞いたので線香を、でもいいけど、やっぱ嘘がバレそうだからな。俺の姉貴は今年29歳だ、どこで知り合ったとかはどうでもいいや、そうだな、姉は今入院してて来れないから、代わりに来た、にしておこうか」 「そんな……嘘までついて、つきあってくれるなんて」 「空羅自身が知り合いだなんて、空羅の身の上を知ってたら、はるかに無茶があるからな」 「うんそうだよね、年齢的にも」 年が離れた友人もいなくもないが。
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