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「いんや。空羅には友達がいなかったから」
ハンドルを握るその手が、ぎゅっと硬くなったのを紗栄子は見た。
紗栄子は思わず左の手首にある傷に触れていた、今は真治のYシャツで隠れているが──。
「これは、そのあたりが原因?」
「親の所為だよな」
真治は吐き捨てるように言った。
「空羅は苦労人だ。親が空羅自身に関心を示さなかった、育児放棄ってやつだな。一度同居しますって挨拶に行ったけど──空羅は会う必要はないって固辞してた、でも俺がこれも礼儀だ、会えないなら住まないって言ったら渋々会せてくれたけど、まあ酷かったな。本当に空羅には一言も掛けずに視界にすら入れずに、空羅の後ろにいた俺にばかり話しかけて、おまけに口説いてた」
「マジか」
どれほどの親子関係だったのか、全く知らなくても腹が立った。
「食べるものもろくに与えられなかったらしい。空腹に耐えかねて万引きは繰り返したみたいだ、補導されては施設に連れて行かれて、でもすぐに親元に戻されて、殴られて──援助交際で生きる道を見出したのは小学生の時だって言ってた、小中学生くらいだと高額で買ってくれるし、言えば食べ物も着るものも買ってくれるから助かったって」
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