【目を開けるとそこには】

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衣擦れの音と共に男は低音で悪態をつき、少し長めの前髪をかき上げながら目を開きかける。 「え……っ、いやいや! 起きちゃ駄目!」 慌てて上掛けを引っ張り豊かなふくらみを隠した、途端に男の裸体が露になってしまい、紗栄子は焦って上掛けの掴みその体を隠す。 「ソラ……どうし……」 「どうも、こうも……! とにかくそのまま寝てて!」 電話をしよう、警察だ、と自身のスマートフォンを探した。だが自分の荷物すら見当たらない、数年間愛用している高級ブランド物の手提げだ。ベッド脇の小さなチェストの上で、充電されながら鳴っているのは見覚えがないスマートフォンだ、男のものだろう。 (なんでよ……どこに……) 別の部屋かもしれない、とりあえずベッドを出ようと布団から手を離した時、その手首を掴まれた。 「──や……っ!」 ぞくりと寒気が忍び入る、自分の知らぬ間に、どこの誰とも判らぬ男に犯された恐怖が呼び起こされた。 そんなこととは知らずに、男は空いた手をスマートフォンに伸ばしてアラームを止める。 「ん……もうちょい寝ようぜ……」
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