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廃墟のホテル内に大きな足音が響く。ホテルは手入れがされておらずエレベーターは当然動かない。廊下には瓦礫が散乱し、 壁には穴が明いている。
蜘蛛の巣が至る所にアートを画き、 どこからともなく入る風が冷たく足元を通り過ぎる。
時刻は昼時だが鬱蒼と茂る木々に囲まれ室内はどこか薄暗い。扉は建付けが悪く、独りでに動く始末。幽霊がいるといえば間違いなく信じそうな有様だった。 そんな中、 二人の男女が何かから逃げるように懸命に廊下を駆けている。
「こーちゃん、 お腹空いたよ」
雨宮 雨子は重そうな蛙の着ぐるみを纏い、お腹のポケットから美味しい棒を取り出した。明らかに有名なあの商品の模倣品
だと思われる。そしてそれを食べながら後ろ脚で跳ねていた。
「また、 お菓子食べて。本当に呑気ですね、 君は。今の状況分かってますか?」
二神 光一は冷静沈着に周囲を見ながら進む。背後からは一人の黒髪のウェーブがかった髪が印象的なスレンダーな長身の女が迫って来ていた。ヒールで床を蹴るたびコツコツという音が館内に鳴り響いた。
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