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1.引越し
ガラガラ。大きなキャリーケースを連れて歩く私は、ちゃんと男に見えてるだろうか。
春崎名央、28歳。浮気野郎の元彼と別れ―というより一方的に縁を切り―、今日から住むのは――この立派な一軒家。
ルームシェアというとマンションのイメージが強いけど、私が見つけたのはこの家をシェアするものだった。
「……うん、やっぱり大きい」
まだ少し距離はあるが、よく見える。
ここには、私以外に三人の入居者がいる。四人目が出ていったからと、新しく募集されてるのをたまたまサイトで見つけた。
二階建てで、個室は一階に一部屋、二階に三部屋。私は二階の小さめの部屋に入ることになっている。
「なーおくん!」
「ん?」
家を見上げていた私は、視線を近くに戻す。前の方から、明るい金髪に黒い服の、いかにも陽キャな彼が歩いてきていた。
田牧稜太くん。26歳でアパレルショップで働いている。
「ああ、稜太くん」
「引っ越し今日って聞いてたからさ、迎えに行こうかと思って!」
「ありがとう」
「え、荷物そんだけ? 少なくね?」
「僕は身軽なのが取り柄」
「ふーん?ま、そんくらいのほうがいいよね!もってあげるよ」
「え、でも」
「いーから、いーから。新しい人には優しくしなきゃね〜」
ニコニコと歯を見せて笑う稜太くんに、私も笑ってうなずくことにした。
「これで満室になったし、楽しみだな〜!」
「そ……そうだね」
適当に愛想笑いでごまかして、並んで歩き出す。
実は、ひとつ問題がある。
これから行く場所は、私以外の三人は男性なのだ。
そして、新しい入居者として募集されていたのも男性。
なのに、女性の私が入ることになってる。
つまり、他の三人を騙すために、私は男装して男として入居することになった。
……というのも、男装せざるをえない事情があったからだった。
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