2.作戦会議

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「色々心配なことはあるけど…。どうしてそこにしたいの?」 「立地がいいし、家賃もそれなりで条件がいいんだ」 「男性募集なのに?」 「そう、そこ以外は完璧なんだよ」 「普通は諦めるんじゃ……」 「なんかね、電話したら、面接?話?を一回やって決めましょうってなって。それさえ突破すれば、あとはなんとかなると思うんだよね」 「うーん……」  じっ、と亜梨珠が私の顔を見る。 「名央ちゃんは女子の中だけでいえば、たしかにカッコイイよ。声だってハスキーだし。でも…、周りが男性ばかりだと、やっぱり女性だって分かっちゃうんじゃないかな」 「え〜、髪切ったけど男に見えない?」 「うん。私が見慣れてるからかもしれないけど」  亜梨珠は高校生のときからの友達。かれこれ十年…いや、十六年くらいは付き合いを続けてる。 「ま、話したときにバレたらそこでやめるよ」 「他の部屋は探した?」 「うん。でも、やっぱ高いんだよね。亜梨珠の家に何日も泊まるわけにもいかないし」 「私はいいんだけど……、俊輔も楽しそうだし」 「創司(そうじ)さんに悪いよ」  創司さん、亜梨珠の旦那さんだ。優しくてちょっと明るくて。お似合いの夫婦だと思う。結婚式に出たのがもう懐かしいや…。 「創司さんだって許してくれると思うけどな」 「夜泣きなら任せて」 「ふふ、うちに泊まりに来たときはいつも代わってくれるもんね」 「うん。とはいえ、やっぱり家族で過ごしてほしいな。それでね、亜梨珠」 「ん?」  ちょいちょい、と指先を動かして、近づくようにジェスチャーする。  亜梨珠は素直にちょっとだけ、私の方に顔を近づけた。  私は声をひそめて話す。 「引越し先のこと、夕真や家族には言わないことにしようと思ってるの」 「ご家族にも?どうして?」 「もし来られたら面倒だから」  そこで私達は元の距離に戻る。 「聞かれたら適当にはぐらかしておいて。本人に伝えますとか言ってさ」 「だから私には話してくれたんだ」 「亜梨珠にしか話せないって。そういうわけだから、なるべく男として見てくれない?今から準備しておきたい」 「がんばる」 「ありがと」  俊輔くんはまだ気持ちよさそうに眠っている。私達はどちらかともなく、互いの拳を軽く突き合わせた。高校生の時からの癖だ。ハイタッチだと音が鳴るから、こうやってこっそり、コンとあわせる。  今にして思えば、あの癖も正解だったかもしれない。
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