花開く、夢開く

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 まあ、絵を描け、と言っているのにすぐに飽きて放り投げてしまう子や、花を描くように言っているのにいつの間にか怪獣になっている子、なんていうのは時々出現するわけだが。あとは、花がテーマであるのなら花がメインであるべきであるはずなのに、肝心の花はすみっこに小さくしか描かれていなかったりとか。  勿論、それも私達はけして“ダメ”とは言わない。それも子供達の個性だからだ。芸術の世界に正解・不正解はない。招来プロ作家を目指すのならある程度ルールに迎合する必要はあるだろうが、それももっと大きくなってから少しずつ学べばいいことだ。今は、“みんなで絵を描く時間は静かにする”ということをわかっているだけで十分褒めるに値するのである。 ――そういえば、お花を描けと言うと、みんな決まって丸い花びらなのよね。五枚くらいの。  子供達の様子を見て回りながら、私は不思議に思っていた。 ――元ネタでもあるのかしら。でもって、みんな咲いているお花を描くのもテンプレートっていうか。  しかし、そう思った矢先目に入って来たのは、大きな大きなピンク色の蕾である。幼稚園児の絵としては格段に上手いだろう。なんせ、チューリップの蕾だろう、となんとなくアタリがつくくらい特徴をとらえているのだから。緑色の鉢植えで育てられている、ピンク色でまだつぼみのチューリップ。それに水をあげているツインテールの女の子が描かれている。  描いているのは、“るるか”ちゃん。女の子だけれど背が大きくて力持ち、みんなの人気者という言葉がぴったり合う少女だ。 「るるかちゃん、絵が上手いのね」  彼女が一区切りついた様子だったので、思わず声をかけていた。するとるるかはにっこりと笑って、“ありがとう先生!”と声を出す。 「チューリップ好きだから!小学校入ったら、育てられるって聞いて、とっても楽しみなの」 「そうなの。どうして蕾にしたの?」 「うふふ」  私の問いに、ツインテールを揺らしながら少女は笑う。 「るるかのね、夢が叶ったらお花が咲くの!」
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