花開く、夢開く

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 ***  実は、子供達の間では“るるかちゃんはいつも蕾のお花しか描かない”ことは既に有名だったらしい。彼女は数日前から、お花の絵ばかり自由時間に描いていて、しかもそれがみんな蕾だというのだ。チューリップではない花の時もあったので、花の種類は関係ないようである。  私にその話をしてくれたのは、るるかちゃんと同じクラスの“けんたろう”君である。 「先生!おれ、るるかちゃんの夢を叶えてあげたい!」 「優しいねけんたろうくん。でも、るるかちゃんの夢が何か、けんたろうくんは知ってるの?」 「知らない!」  なんとも実に潔い。 「でも、どっかに落ちてると思うから、俺幼稚園中を探すんだ!きっととってもキラキラしてるから!」  彼はそう言って、パタパタと園庭に走って行ったのだった。そういえば、最近大流行しているアニメに“飛び散ってしまったヒロインの夢の欠片を、主人公が頑張って探す”なんてものがあったなと思い出す。子供でも安心して見られるような、可愛い絵柄の優しいファンタジーである。きっとけんたろう君も大好きなのだろう。夢の欠片が幼稚園の中に落ちている、なんて考えるのはなかなかロマンチックで素敵だ。  ふと園庭を見れば、当のるるかちゃんは男の子たちに交じってヒーローごっこをしている。るるかちゃんは、女の子とも男の子とも関係なく遊べる子だ。今日は少数の女の子を交えて、みんなでヒーローごっこがやりたい気分だったらしい。 「レッドは、昨日おうま君だったから。次は、別の子がやらないと不公平だよー。名前の順で、今日はさくま君にしようよ」 「ええ、ぼくレッドがいい……」 「他のヒーローも、みんなかっこいいよ。そもそも、レッドがいっぱい活躍できるの、他のヒーローが一緒に戦ってくれるからなんだよ?イエローがいなかったら、重たい岩をどかせないし、ブルーがいなかったらダンジョンの謎は解けなかったでしょ?」 「そうかもだけど……」  頭の良い子だ。特定の役が偏らないように采配を振ると同時に、他の役の魅力もそれとなくプレゼンテーションしてみせようとは。るるかちゃんの言葉なら、とみんなが言うことを聴いてくれるのも、彼女の言葉に説得力があって人望があるかあなのだろう。  そういえば、さっきのけんたろう君も、るるかちゃんがまとめてくれるようになってからレッドの役もやらせてもらえるようになって楽しい、なんてことを言っていた。 ――将来は、本当に先生になるかも?楽しみね。  そんなるるかちゃんの将来なりたい仕事は、“幼稚園の先生”らしい。自分達の仕事ぶりが評価されているのも嬉しいし、彼女なら実現できそうなのもまた喜ばしいことである。
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