3人が本棚に入れています
本棚に追加
***
別の日。
クラスの仲良し二人組、“さくらこ”ちゃんと“ゆめ”ちゃんが手を繋いで私の前に現れたこともあった。
二人は真剣な顔で、“先生にお願いがあるの!”と宣言。
「まい先生!私達にお料理を教えてください!」
「教えてください!」
「え、えええ!?」
何でそうなった、と尋ねてみれば。どうやら彼女たちも、るるかの描く花が蕾であることがずっと気になっていたというのだ。二人で話し合って、るるかの夢がなんであるのかを考えた末。美味しいクッキーを食べることと作れるようになることではないか?という結論に到達したらしい。
何でも以前彼女の家に遊びに行った時、るるかがこんなことを言っていたというのだ。
『るるかのママね、お料理が得意なの。クッキーもすごく上手なんだけど、るるかはまだ全然できないの……。だから、るるかもいつか、美味しいクッキーが焼けるようになりたいの!』
幼稚園の女の子に、コンロやオーブンを触らせないという家は多いはずである。るるかちゃんのお母さんもそうなのかもしれない。勿論、そんなのは大人だからの意見であって、本人達が納得するかどうかは別問題だろう。
「私達がクッキーが上手に焼けるようになったら、るるかちゃんに教えてあげるの!名案でしょ?」
「う、うーん……」
目をキラキラと輝かせている二人を説得するのは、正直骨が折れた。ついでに心も折れそうになった。最終的には“先生も料理がめっちゃくちゃヘタクソだから教えられないの!”で強引に押し通したが。
そのるるかちゃんは、今日の自由時間はおままごとチームに参加していた、ようなのだが。
「やだって言ったじゃん!やだって!なんで聴いてくれないのー!」
「だってゴミだしはお父さんの仕事でしょ!?それくらいやってくれてもいいじゃん!」
「あたしそもそもお父さん役はやだって言ったのにー!」
「じゃんけんで負けたんだからしょうがないじゃん!」
「二人とも落ち着いて、ね?」
どうやら女の子二人が大泣きで喧嘩をしてしまっているらしい。それを、るるかちゃんが頑張って宥めている様子だった。
「りかちゃん。りかちゃんの家では、ゴミだしはお父さんの仕事かもしれないけど。でも、だからって自分のティッシュをさとちゃんに捨てさせるのは、いけないと思うよ。自分が嫌なことは友達にさせちゃだめだよ。それとさとちゃん、ゴミのことはりかちゃんが悪いと思うけど、じゃんけんで負けたらお父さんをやるって約束で、じゃんけんしたんだから。それは守らないとだめだよ。おままごと始まってからもずっと、あたしお父さんは嫌だから!って言ってたらりかちゃんも嫌な気持ちになるよ」
どちらか片方ではなく、両方に問題がある(勿論片方がほぼ一方的に悪いケースもあるが、今回はゴミを押し付けたりかちゃんも、じゃんけんで負けてお父さん役になったのにやる気ゼロだったさとちゃんもどっちも悪いことだろう)。それを具体的に指摘して、どっちの気持ちにも寄り添うのはなかなか子供が持てる視点ではない。一歩間違えると両方に嫌われてしまうから尚更だ。
やっぱり彼女は幼稚園、あるいは学校の先生に向いている子供なのかもしれないと思う。
――けど、結局るるかちゃんの夢って、なんなんだろう?先生になりたいこと、とは別にあるみたいだし……。
最初のコメントを投稿しよう!