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花開く、夢開く
『芸術とは、人の心を映す鏡であり、人の心を育てるもっとも相応しい魔法でもあるのです』
と、いうのがこの“にじいろはらっぱ幼稚園”の学園長先生のお言葉である。
最近では幼稚園と一言で言ってもその教育方針はさまざまであり(元々義務教育ではないし、勉強の内容も決まったものではないからである)、幼稚園の頃からABCを教える場所もあれば、とにかく子供達に体を動かして貰うことを主軸とした場所もある。
私が先生を務めるこの幼稚園の場合は、子供達に芸術を学ばせることを基本方針にしていた。絵を描くことと、工作すること、歌を歌ったり踊ったりすること――と言えばいいだろうか。他の幼稚園でもやっていることだろうが、この幼稚園ではその割合が多い。逆に、スポーツをさせることは少ないと言えばいいだろうか。幼稚園の基本方針はパンフレットにも書いてあるし、学習カリキュラムもざっくりと示してあるので、親も“運動や英語より芸術的感性を育てたいわ!”みたいな人が集まってくる。自然と、この幼稚園には絵を描くのが得意な子、好きな子が多いという状況になるのだ。
そのおかげで、みんなにテーマを与えて画用紙に絵を描いて貰う時間であっても、立ち上がって騒いだりする子は少なかったりする。絵を描くのが大好きで、描き終わるまでどこまでも集中できる子が多いからだ。
「それでは、今日のテーマを発表します。今日は、みんなに“お花”を描いてもらいます!お花ならなんでもいいです、タンポポ、チューリップ、サクラ、バラ、スズラン……自分の好きなお花を描いてください。お花を描いたら、それ以外にも好きなものを描いて構いません!」
「はーい!」
「いいですか、お花を描いてから、他の物を書き足してくださいねー。それでは、始めてくださーい!」
幼稚園児であっても、年長組ともなればこうしたカリキュラムに取り組むことも慣れた子供達が殆どだ。勿論年少から入ってくる子ばかりではないが、それでも赤ちゃんのお隣であるような年少組の子供達と比べると格段にお姉さんお兄さんになっている。うろちょろとお絵かき中に走り回る子や、他の子の絵を邪魔する子、大声を上げる子などは元々そう多くはないだろう。
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