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出会い
テレビの天気予報が梅雨の始まりを知らせた朝に傘もささずにずぶ濡れになっている一人の女性を見つけた。
その女性の瞳を見た時に、本能で近寄ってはならないと己の中で警鐘が鳴り響いていた。しかし、その瞳を逸らすことが出来なかった。
自身の絶望に終焉が訪れる事が無いと分かっていても
それでも尚、誰かに助けて欲しいと望む
その瞳を俺はそらすことが出来なかった。
一縷の望みを抱く気持ちが痛いほどわかるから。
なぜならば俺もまた、その瞳を俺も持っているから。
「傘、忘れたの?」
声をかけてみた。話しかけた瞬間一瞬馴れ馴れしいかと頭をよぎるが歪でぎこちない会話より
フランクな方がマシだと言う結論に至り話を続けた。
彼女は俺の方に身体を向けて
「…?…」
首を傾げて俺を見つめていた。
頭の上に?マークが沢山浮かび上がってる様に見えた。
そりゃそうだろう。突然どういう意味なのか?と思うだろう。
「あそこのカフェで外を眺めてたら、君は傘もささずにずっとここに佇んでいる事に気になってさ」
彼女はそういう事かと納得したように
何度か頷いていた。
「…傘は忘れてしまって…、でもコンビニで買うのお金が高いし…家はここから遠いし困っていた所です」
と彼女は答えた。
という事は、俺が勝手に気を揉んだという事か。
同じ瞳を持っていると俺が勝手に勘違いして行動してしまったという事かと理解して
なんだか申し訳ない気持ちになった。
「もし良かったら、これ使って。俺まだ一つ折りたたみ傘持ってるから」
そうして彼女に傘を渡した。
己の浅はかな気持ちに付き合わせてしまったせめての罪滅ぼしのために…。
「いえ、気になさらなくても大丈夫ですよ…」
「雨に濡れたら風邪ひいちゃうからいいよ、使って」
「でも…。」
彼女は申し訳なさそうに俺の顔を覗き込んでから自分の鞄から手帳を取り出し
何かメモを取り始めた。
何だろう?
そう思っていたら、自身の電話番号と来週の日付が書かれていた。
「あの、来週この日は私いつでも時間が空いてますのでもし空いてましたら連絡を下さい。
その…傘を返します」
と言ってきたので思わず吹き出して笑ってしまった。
律儀な子だ。
「分かった、じゃあ空いてたらまた連絡するよ。そうだな…待ち合わせはここのカフェでどう?」と
自分が先ほどまでいたカフェに指を向けた。
彼女は頷き一礼をすると人混みの中に歩いていった。
これが彼女
宮内 春との出会いだった。
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