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04 加代の話
ビスケットは水分が少なく食べにくい。加代はそれでも、お腹が空いていたらしく一気に食べた。そして喉に詰まってむせた。
「はいこれ」マリンはぼそっと言うと、自分の飲みかけのお茶を差し出した。
「ありがと」加代は喉を潤すと、小さな声で言った。
そして、すぐそばのベンチに三人並んで座った。気を落ち着けるように深呼吸してから、加代は語り始めた。
「よく覚えていないの。帝都で暮らしていたことは覚えているけど、自分がどんな生活をしていたとか、家族とか」加代はうつむき気味に悲しそうな顔をした。
「気がついたら、白いこの世界に立っていた。でも、自分が何をすべきかは分かっていた。コンソールの使い方も」
加代は遠くを見るような目で語った。同じだと思った。転生の経緯とか帝都の記憶は残っているのだが、生活の記憶が断片的なのだ。まるで、都合が悪いところを削除したように。そして、加代は続けた。
「まずは自分の住む場所がなくてはと思って、家を投稿したんだけど、なにも起こらなかった。何度やってもだめ。それで頭にきて、それじゃデカイものを作ってやるって思ってビックメロンパンを投稿したら、こうなったってわけ」
なるほど、加代は俺たちと違って、大きなものしか投稿できない仕様なのかもしれない。さらに、その管理メニューも違うものだった。もっと洗練されている。
「大きな建物だけで、人は自動生成されないようだね。運用するための設備とかは揃っているようだから、人員さえいたら使えそうだな」
これはチャンスかも知れない。世界創造にとって、大きな進歩となりそうな気がした。
「力を合わせて、この世界を良くしていこう。世界創造しよう!」
加代の顔がパッと明るくなった。きっと心細かったに違いない。
「ま、二人共頼りない感じだし、手伝ってあげてもいいわ」大きな態度で言った。
「ナロン町に来ないか? 小さいけれど住む家はあるし、コンビニもあるぞ」
「うんうん、行く!」即答した。笑い顔が無邪気で可愛い。
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