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窓に預けていた頭をあげて、窓越しに車外の空を見上げる。暗い色の空から、傘をさしていても、足元から濡れていってしまうような、そんな、少し強い雨が降っていた。もし外にでたら、シワのついたスーツに雨の匂いまで染み付いてしまいそうだ。街並みはビルが消えて、住宅街となっている。車通りが多く、乗っている車はなかなか進まない。車を持つようになってから、後部座席に座ることは久しぶりで、つい、意識が遠のいてしまう。でもそれは、単に運転手の立場では感じない眠気を、他の立場にならなかったことで忘れてしまっていただけかもしれない。
私は子どもの頃、よく、父親の車に母を含めた家族三人を乗せて出掛けた。母がペーパードライバーだったため、運転手はいつも父親だった。運転する父は、もちろん後部座席を振り返ることはなく、車内で視線が合うことはなかった。母がいつも気を使って話題を提供していて、私は、うん、とかいや、とか短い相づちしかしていなかったと思う。そのうち、母が車に乗らなくなって、私と父だけで出掛けることが増えてきた。父は母がいないと、私とうまく話すことができず、いつもぎこちない。振り絞って紡いだ言葉も、大して広がらなかった。私が高校に入った頃、母が家からも居なくなった。父は何も言わなかったし、私も薄々わかっていたことだから、何も言わなかった。
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